巻頭言


研究発表を聞いて

田中一昭

草野教授から報告書を作るから感想を書いてくれとの電話があった。 二つ返事で引き受けたのは、学生さんたちの研究発表から3カ月経っていても、 電話をいただいた途端に、あの時の驚きと感動が鮮明に蘇ったからである。

研究発表の内容も発表者の態度も、とても今年4月に大学に入学した連中のも のとは思われなかったからである。もちろん、草野教授や大学院生の野本さん などの指導があったことを割り引いてもである。

規制緩和、情報公開、行政改革のそれぞれのテーマについて、13〜4チーム が発表したと記憶するが、その感想を若干述べてみたい。

第一に、各チームとも、問題の把握が的確で、現時点での当該分野の有識者に 近いレベルまで達していたこと、問題へのアプローチや論理の展開も概ね妥当 なものであったことである。

第二に、13分間という限られた発表時間内で、課題がもつ問題点について、 聴衆である「普通の人たち」を納得させるために発表の仕方に工夫を凝らした ことである。演劇形式あり、漫才形式あり、ニュースステーション形式ありで、 表現の仕方が個性的で、パフォーマンスも伸び伸びしており、私たちの学生時 代とはおよそ違い、驚くよりも先に感心させられた。いや、羨ましく思った。

そして第三に、足を良く使い、現場で話しを良く聞き、資料を良く読んでいる ことが伺えたことである。

この経験はいずれ社会人になった時に、きっと花を咲かせ、身を結ぶことに役 立つものと確信する。学生たちのこれからに大いに期待したい。

私どもを加えてのパネルディスカッションも、学生たちとの間で素直なやり取 りができて気持ちが良かった。若い人たちの議論にすっかり気分が乗って私自 身学生気分に戻り、元気を出し過ぎたところもあったのではないかと反省して いる。

一つの問題を追いかけ、自分なりの結論を得る訓練は貴重である。望むらくは、 政治が駄目だ、行政は怠慢だ、国民の自覚が足りないなどと短絡的に考えるこ となく、以下にして国民にとって望ましい社会・経済システムに改革していく かとじっくり検討することである。一つの問題を考えるに当たっては、こうす べきという結論を導くだけでなく、そのための過程についてきちんと吟味する 必要があり、こうした発表形式による授業はそうした思考訓練のために大変良 い試みであると思う。

それにしても、12時半過ぎから6時近くまで、教室のあの硬い椅子に座って いることを忘れさせた研究発表に、そして厭味のないパネルディスカッション に参加させていただいたことに心からお礼を申し上げる。

('95.10.15 記)