情報公開法では、「何人も」情報を請求することができ、行政機関は請求者を調査することはできない。つまり、情報の請求者にその情報の使用目的を問わず、情報をどのように利用するのかは請求者の自由だということである。したがって、不当な目的のために情報を引き出そうとする者がいても、それを妨げることができないのである。
アメリカの情報公開で実際に起こっている問題として、次のようなものがあげられる。まず第一に、アメリカでは、請求者の8割以上が企業または企業を代理する弁護士であり、競争企業の機密情報を収集するためとか、政府を半トラスト訴訟を起こすためとか、その他訴訟資料を収集するためなど、その自己の利益のために情報自由法を利用している。第二に、犯罪者によっても利用されているということである。自分についてのファイルを請求するだけでなく、捜査方法や、行政指導要項などの機密情報をも要求してくる。さらに、行政機関の職務の執行を妨害するという明確な意図で情報公開の要求が行われることもある。膨大な量の資料請求を行うことで、そこに多くの職員と重要な資料を釘付けにし、行政機関による取り調べや規制を妨害しようとするものである。これらの不当な目的での情報公開法の利用は、「政治参加」や「政治の透明化」、「汚職の防止」の本来の目的に反しているといえる。
これらの問題の解決策としてはいくつか考えられるが、情報請求者のプライバシーの保護の問題などがあり、まだこれからの課題であるといえる。まず、請求者の身元の確認をするという方法がある。請求者の人物像か身元調書一式の編纂を提出させるのである。また、訴訟当事者、重犯罪人、外国人には請求の制限を設ける、という方法もある。さらに、情報の公開の請求を目的の範囲内に限定する、という制約を設けることもできる。しかし、それぞれについて問題点が存在する。
請求者の身元を確認するのであれば「人物像か身元調査書一式」を編集するということ示し、請求者のプライバシーの侵害となりかねないばかりか、自分を知られることを嫌がる一般市民が(たとえ正当な利用であっても)請求しづらくなる。請求者の制限については、代理人を立てれば無意味であるし、「濫用、悪用の効果的な防止」より「国民に対する不法妨害」となってしまい、また運用上の時間的負担、費用がかかる。利用目的による制限も、請求者に対し利用目的を提出させねばならず、プライバシーの問題に絡んでくる。
このことに関してはもう一つの観点から現在でも議論されている。わが国ではもちろん情報公開法は制定されていないので、現在の地方自治体それぞれのレベルで見てみて、これを国レベルで考えればいいのではないか。ちなみにこの対象はわが国でも情報公開が進んでいるといわれている神奈川県条例である。 現在では(各々の自治体の選択肢として)公開請求者を「何人」とするか「すべて国民」とするか、あるいは「県民」「住民」、「県内、町内の事務所、法人を含む」とするものなどがある。神奈川県提言は、広く「何人も」とすべきであるとしたが、その理由は「本県における情報の制度化は、国民の「知る権利」を保障し「開かれた県政」を推進することをその目的とするものであるが、今日の情報化社会においては、県域を越えた情報の交流が要請されている」としている。注目すべきは、後半部分であり、埼玉県提言でも「本県の情報公開の理念を考慮し、県民及び県内法人とすることで意見の一致を見た」とし、「なお、これら以外の者であっても埼玉県の情報公開制度の趣旨にそった求めに対しては、対応ができる余地を残すべきである」としている。 我々もこの提言を参考にして、基本的には「日本国民(日本に在住するもの、あるいは日本にある法人)」とし、諸外国の要求にも対応できるとするのが好ましいのではないかという結論にいたった。