政策過程論

1999年秋学期

草野 厚

 

1 目的

 この授業では、日本政府が行う様々な決定や実施(この二つを含めたものを政策過程と呼びます)はどのような経緯を経たものか、実証的に明らかにする基礎知識を提供することを目的とします。

 この段階では、「様々な決定」が具体的に何をさすのかは、わからない人も多いでしょう。また、決定と実施とどのように異なるのかもよくわからないかもしれません。

 この授業で扱う日本政府の様々な決定及び実施(政策過程)とは、第一にある政策を実行するために必要な法律案(法案)を政府が国会に提出し、可決成立(あるいは否決ないし、継続審議、廃案)するまでの過程および、その法律案に基づいてしかるべき措置がとられる実施の段階にかかわる過程を指します。

 具体的な法案で説明すれば、98年の夏の臨時国会では、小渕内閣のもと、金融関連法案が審議され、11月には成立しました。金融の安全ネットであるこの法律に基づいて、公的資金が金融機関に投入され、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行が公的管理となりました。批判の多かった法案ですが、国際的な日本の信用はこれにより回復しました。また、98年の通常国会で提出され、99年の国会に引き継がれた、日本周辺の有事の際の日米協力のあり方について定めた周辺事態法案は、99年5月に成立しました。この後、法律が予定している事態は起きていません。さらに、99年通常国会の終盤では、衆議院の比例区部分の定員を50名削減する法案が、急遽審議され、次期国会冒頭で処理することが決まりました。この法案が、いわゆる自自公の連立問題と関わりがあったことは説明するまでもありません。法案提出が、政治と密接に関わりを持っている好例です。

 

 第二に日本政府が行う決定は、既存の法体系を前提に、何か問題が生じたときに対応するために必要とされている決定および実施です。典型例は、1995年の阪神淡路大震災に対する日本政府のとった措置です。このカテゴリーには、官僚が日常的にルーティーンワークとして行っている業務の大半が含まれます。

 こうした日本政府の政策過程を実証的に明らかにする意義はいくつもありますが、次の二つをあげておきます。

 第一は、政治の仕組みを理解するには、自ら調べて政策過程を再構成することが近道であることです。抽象的に、「日本の政治は官僚支配である」と書かれた記述を繰り返し読んでも、具体的にはよくわからないのではないでしょうか。その点を、実証研究は補ってくれます。もとより、限られた時間の中で、本格的な実証研究は無理かもしれませんが、既存の作品を熟読することに加え、初歩的な実証研究を是非すすめます。

 第二は、第一とも関連しますが、政府のある政策の決定、実施は必ずしも合理的(授業で説明します)に、行われていないことを、政策過程を学ぶことによって理解できます。

 本来ならば、Aが望ましいのに、Bになった場合に、単に政策の中身の可否ではなく、決定に携わる人々のチームワークや、相互の関係、最高政策決定者の指導力、情報の伝達の仕方、組織の惰性(いつも同じように対応するというような意味)といったことが、関係している場合が多いのです。

 

 授業では、最初の二回ほど、この授業が対象とする日本政府、それを支える与党、さらには国会などを視野にいれながら、政策決定機構について説明します。さらに主要な政治課題についても説明します。

 第二回以降は本論です。授業参加者も含めたゲーム(グループはそのつど臨時に編成)も取り入れながら、実証研究を行うために必要な分析枠組みや基礎知識を学びます。

 

2 授業スケジュール

第一回 授業概要および日本の政策決定機構について

第二回 日本の政策決定機構と政策課題

第三回 身近な決定、歴史分析との相違、政策過程の定義いろいろ

第四回 三つの政策過程レベルと分析範囲

第五回 資料の収集方法と整理

第六回 以下、最終回まで、合理的行為モデル、組織過程モデル、官僚政治モデル、国内政治モデルなど一連の分析枠組みを紹介

 

なお、一、二回、ゲストをお呼びして、お話を聞くことも考えています。

 

3 その他の諸注意

・成績は期末レポート(実証研究)および、一、二回課される感想文などによりつける。

・政治システムで行っているような本格的なグループワークは行わないが、適宜、授業時間中にグループを組織し、決定ゲームを行うことがある。