・バランス・オブ・パワーの対抗概念の一つとしての相互依存論

         1.背景
         2.相互依存と平和の3つの切り口
         3.相互依存論の問題点
         4・相互依存論の前提としての交流(トランス・ナショナル)の形態

レジーム論
 



 
相互依存論

コヘイン・ナイ(二人の政治学者)の考え方

 

<相互依存論>
以下の議論は、山本吉宣『国際的相互依存』東京大学出版会(1989)野林健他『国際政治経済学・入門』有斐閣(1996)に主として依拠している

 

1 背景

(国際経済の政治化)
60年代までの前提は、固定相場制の安定、自由、無差別、多角のルールに基づいた通商体制の維持
1971年8月の事件 ニクソン・ショック
    金・ドル兌換を一方的に廃止、変動相場制への移行
・1973年10月の事件 第四次中東戦争の勃発
   原油価格の高騰(4倍)
   アラブ石油産油国が石油を武器として利用
   南北問題への影響
   天然資源の重要性を再確認
・通商問題の政治化
   日米間では、繊維紛争(1960年代末から70年代はじめ)など個別分野の摩擦激化
   70年代末から80年代末まで、 米国の保護主義台頭の結果、日米経済紛争断続的に続く(74年通商法等)
   しかし、自由、無差別、多角というGATTの基本的な枠組みは機能

 

 先進国間の経済の相互の密接な結びつきの結果、各国はその主要な経済目標(経済成長、物価の安定等)を達成するにあたっては、多国の政策の自国へのインパクトを無視できなくなった。国際政治を基本的に国家間のゼロ・サム・ゲームとみる伝統的な考え方から、次のような新しい考え方に移行。国家間の関係が経済の自由な交流によりすべての国が利益を得るという、ポジティブ・サムになりうるというのである。

相互依存世界における国家は、単に国民の福祉を第一義的に考えるという理由からではなく、高度に発展した産業国家にとり、武力が行使された場合の損害が極めて大きく、したがって、国家間の紛争を解決するためには、武力の行使は有効な手段ではなくなったとする。

 

(コヘイン・ナイの相互依存の定義)
「相互依存とは、相互的な依存関係を意味する。世界政治における相互依存とは、国家間あるいは異なる国家に属する行為者の間における、相互に与えるインパクトによって特徴づけられる状況を指す。このような(相互的な)インパクトは、国境を越えた、カネ、モノ、ヒトおよび情報の交流、という国際的なトランズアクションによってしばしば引き起こされる」

 

K/Nの伝統的な現実主義への理解と批判)

伝統的な現実主義  国家の支配的な目的  軍事的な安全保障
          達成する有効な手段  軍事力
          国家間の階層秩序   軍事力の分布

領域を越えて影響力が行使される場合(例、経済)  軍事力が大きいほうが有利

 

(複合的な相互依存では、基本的に三つの特徴)

@国家は多チャンネルで結ばれている
A国家間における課題は、多くのイシューからなり、イシュー相互には明確にまた、恒常的に成り立つ階層性はない
*具体的に考えてみよう

B複合的な相互依存が支配的な地域、問題領域では、政府は、他の政府に対して軍事力は行使しない
*これはどのような意味か?
 

(相互依存促進の要因)
・冷戦の終焉
・旧ソ連の資本主義への移行
・1985年以降の先進国間の経済面での政策協調
・地域的な経済統合
・相互主義の登場

 
                  

2 相互依存と平和の三つの切り口

@リベラルな国同士の間の平和
・高度に進展した(複合的)相互依存は、国家は政治的には民主主義、経済的には市場メカニズム、つまりリベラルな国家同士の平和

*リベラル・ステートとは、恣意的な権力からの自由、平等の機会、表現の自由、政治的な、民主的な権利が保障されている政治体制をもち、私的所有権、企業活動の自由などが保障されている経済体制をもつ国家

*「平和は、通商の当然の結果である」(モンテスキュー)

 

A機能主義

・相互依存は、政治的な紛争よりは機能的な分野(例、経済、教育、科学技術、通商)に焦点を当てている点に着目する

*機能主義の一つの仮説は、人間を集団の形成へと導く直接的な契機はニーズの充足という機能にある。そこでは、人間が国家に対して究極的な忠誠心を捧げているのは、国家が人間のニーズ(平和とか、福祉の価値)を充足する存在であったからとする)

   国際組織による機能的な協力  → 平和の実現

*経済、社会、文化など、非政治的な、非論争的な領域
 1865 国際電信連合
 1874 一般郵便連合
 1875 国度量衡連合
 1883 国際工業所有権保護同盟
 1890 国際鉄道輸送連合

 

Bポジテイブ・サム
・ゼロ・サムではなくて、ポジティブ・サムの考え方

 ポジティブ・サム     経済的な交流が増大すればするほど、双方の利得は増える
 ゼロ・サム       一方が利益を得れば、他方が損をする

・経済的な交流が増大すればするほど、双方に対する利益が大きくなるという仮説

 
 

3  相互依存論の問題点

 BOPとの違いは明らかになったであろう

@相互依存論の問題点は

・リベラル・ステート以外にどう拡張するのか
・相互依存は、利害関係を錯綜化
・政治的な領域と、非論争的な機能的な領域区別困難
・通商の拡大で、先進国と途上国との格差を拡大
 


4 相互依存論の前提としての交流(トランス・ナショナル)の形態

・モノ以下、各分野での国家単位の国境調整措置の存在
 (例)関税、補助金、数量制限

   モノ  カネ  サービス  情報  ヒト

 
・各分野で、自由化が遅れた国(国境調整措置が多い国)から、進んだ国まで多数
・対外依存度の多寡とネットワーク
・対照的と非対称的 *図参照
・非対照的な対外依存の起きる理由   経済規模

*小国は、大国に生殺与奪の権を握られている
*小国が、大国に依存しているとして、小国が交流を通じて経済成長を目指すとすれば、大国の経済の動向に大きく左右される

 



 
レジーム論

@国際レジームとはなにか
相互依存論で指摘された、国家の交流に一定のパターンがみられ、これが枠組みとして国家の行動を制約することに着目

A定義
「様々な問題領域におけるルールのセット」

B例
 IMF
 WTO
 NPT

C原則  規範  ルール  政策決定手続き

D国際レジームの効用
・国際システムには中央政府が存在しない
・レジームがあれば、ルールを遵守するという前提であれば、各国の行動を予測できる
・レジーム上で、標準化が進めば国益を変化させることにもなる
・レジームの形成過程、維持過程では、条約や慣行が役割を果たしているという見方と
・覇権国の役割が大という見方にわかれる

Eレジーム論批判