・前回バランス・オブ・パワー(Balance
of Power)の積み残し
・国際統合論と相互依存論
1.背景
2.基本認識
3.中心的な概念
4.具体的な手続き
5.EUの「成功」と国際統合理論の問題点
<バランス・オブ・パワー>の続き
以下は、先週の積み残し分
5 理念型としてのバランス・オブ・パワーシステムの困難性
@国力がほぼ同じの五カ国程度が存在することが望ましいが、現実は異なる
・冷戦期のように二国対立では、バランスがとりにくく不安定になる
ABOPをシステム維持のメカニズムとして必ずしも認識せず
*「昨日の敵は明日の友」の考え方が各国に共有され、それを実行に移さないと、BOPは機能しない
・BOPを共通の価値観にしない国がシステムの有力国として登場
以上のように、古典的、理念的なBOPは機能してはいないが(冷戦後、機能するのではないかとの議論あり)、各国とも、他国のパワーや、バランスを重視して行動しているといえる。
6 BOP(理念型とは限らず)について討論
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BOPを諸君は肯定しますか、それとも、否定しますか
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二者択一が困難であれば、条件をつけても結構です、どのように考えますか
以下から本日の新規レジュメ
パワー(力)を中心とした国際システムの考え方(現実主義)に対して、何か違和感を覚える諸君も多いでしょう。歴史的にみても、第一次世界大戦後の国際連盟の発足や、不戦条約に見られるように、国際組織を作れば、またルールを設ければ、紛争や戦争はなくなる、少なくなるのではないかという考え方(理想主義)がありました。残念ながら、国際連盟、不戦条約ともに、加盟各国への強制力を有していなかったことや、そもそも非加盟国(脱退した国も)には、何ら影響力をもつことはなかったために、第二次世界大戦が勃発しました。しかし、そうした理想主義の考え方は、第二次世界大戦後も、消えることはありませんでした。それどころか、国際連盟の欠陥を補うかたちで国際連合を発足させました。なかでも、安保理事会の常任理事国に対して国際の平和と安全に関して全面的な権限を委ねるなど工夫の跡がみられました(もっとも、このことが別の問題を惹起したことは、周知のとおりです)。国連の可能性と限界については、機会を改めて論じます。
この理想主義の考え方の根幹には、国際システムが、主権国家の集合体ではあれ、それぞれの国家が自己主張を行いすぎる、したがって国家エゴを減少させる手だてを考えればよいという認識があります。国連は主として、国際の平和と安全を保持するには、どのようにすべきかという観点から、論じられて来たのに対して、1945年以降の国境を越えた活発な経済活動を目の当たりにして、他国の市場と自国の市場の障壁を相互に撤廃できたらどんなにか企業活動や資金移動は効率的に行われるのではないかという考え方が生まれてきました。それが、次の国際統合理論の背景にあります。
1.背景(前述の内容とも関連して)
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現実の活動(欧州共同体の発足)
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対立、強制的要素を強調するBOPに対して、協調や協力さらには非強制的な考え方の必要性
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第二次世界大戦前から続く理想主義の流れ
2.基本認識
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相互交流の活発化や共通利益の増進を通じて国際平和を実現
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各国間の対立的要素よりは、経済、文化・社会など非政治的で非論争的な要素に注目
<非政治的な分野を重視する理由>
非政治的な活動領域における国家間の協力は、自動的に他の領域の協力関係に発展するであろう人々を集団の形成活動(国家を念頭)に導く動機の一つは、欲求の充足であり、もし、国際組織がそれに代わり、欲求の充足のための要素を供給できれば、人々はその忠誠心を国家ではなく、国際組織に向ける。ナショナリズムから人々は解放され、国際主義を標榜するようになるはず
3.中心的な概念
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機能的(包括的ではない、経済のような個別分野という意味)・地域的組織による加盟各国間の協力
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組織と加盟各国間の協力の促進により、この分野のエリート間の国際的ネットワークが形成され、それが、他の分野の協力に発展していく(波及効果)
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このプロセスにおいて、次第に国家よりも、国際組織の役割が重視されるようになる
4.具体的な手続き(経済統合)
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加盟各国間で、関税や数量制限などを撤廃したり、軽減したりする(自由貿易地域)
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以上のような貿易の自由化に加えて、地域外からの輸入に対して、加盟国間で共通の関税を課す(関税同盟)
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商品とともに労働や資本などの生産要素の自由移動が加盟国間に認める(共通市場)
<ECからEUへ>
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1991年12月 EC首脳会議、欧州共同体を欧州連合に発展決める
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92年2月 共通の通貨、共通の外交、安全保障等の達成をうたったマスーリヒト条約に調印
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93年11月、統合の深化(社会福祉、環境政策などについて特に)に反対するデンマークを含め(デンマークは特別扱い)、批准し、条約は発効(15カ国)
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15カ国は、フランス、ドイツ、イタリー、ベルギー、イギリス、オランダ、ルクセンブルグ、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、アイスランド、オーストリア、スウェーデン、フィンランド、デンマーク
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98年1月 共通通貨ユーロ発足(財政赤字を3%以内に押さえた国が導入)
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共通外交・安全保障政策(CFSP)
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政策決定に棄権する国は、政策遂行義務を免れる
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EU拡大 → 製品の自由化、人の自由移動、サービス貿易の自由化、資本の自由化など31項目を審査し、ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロベニア、エストニア、キプロスが候補国
5.EUの「成功」と国際統合理論の問題点
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EUの「成功」には、共通の歴史、文化、伝統、(宗教)が存在
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17世紀以前はもとより、それ以降も、繰り返されてきた戦争を忌避する共通の意識
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EUに至る過程は、40年ほどかかっている
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中核の加盟国の経済発展度は高い点で共通
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米国への経済的対抗心
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「成功」したEUでさえも、国家の主権を部分的に認めている状況
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EUからその他地域への波及は、米国・カナダ・メキシコによる自由貿易協定など限定的(2000年秋に、日本とシンガポールの自由貿易協定に向けての協議開始)