アメリカの官僚制機構は、国務、財務、国防、司法、内務、農務、商務、労 働、厚生、住宅・都市開発、運輸、エネルギー、教育、復員軍人の14の省に加 え、内閣に属さず大統領が直轄する独立行政機関と、大統領府によって成り立っ ている。各省の長官は大統領が指名し、上院の承認によって任命が成立する。 これらの長官は憲法の規定により上院もしくは下院の議員を兼ねることはでき ない点で議院内閣制とは対照的である。また閣僚は、大統領の同僚ではなく彼 に従属する属僚であり、政策に関しては大統領に助言を行い、各省庁を統括す るのみであって、議会に対して責任を負わない。また、大統領に対しても責任 を負わない。
このことは、学識経験者等の政策決定過程への参入を容易にし、柔軟な政策 をとることもできる。一方、ある閣僚が、政策決定過程に於いて重要な役割を 果たすか否かは、そのひと個人の能力以上に大統領の志向に委ねられている。 また、アメリカの閣僚の地位は、政治的に上院議員よりも有力であるとは考え られていない。この点は、日本やイギリスとは異なる点として特徴づけられる。
内閣は大統領に助言を行う存在ではあるが、大統領の助言者は内閣に限られ ない。大統領は1939年行政再組織法によって直接の助言者として、大統領補佐 官を制度的に設置することができるようになった。大統領個人がその人数や役 割を決定し、任命に際し上院の承認を必要としないこれらの補佐官は、一般に は「閣僚級人事」として認識される。どの機関を重要視するかは、個々の大統 領に委ねられる問題ではあるが、かぎを握ってくる省や機関としてあげるとす れば、国家安全保障会議(NSC)通商代表部(USTR)、行政管理予算局 (OMB)、中央情報局(CIA)、国務省、国防総省、国家経済会議(NE C)などであろう。
NSCに関しては、大統領の決定スタイルによってその重要性は大きく左右 され、アイゼンハワー政権・ニクソン−フォード政権・カーター政権に代表さ れる「NSC重視型」と、トルーマン政権・ケネディ−ジョンソン政権・レー ガン政権に代表されるように、NSCを軽視し閣僚を重要視する傾向にある 「NSC軽視型」がある。
CIA長官は閣僚の一人であり、NSCの法定メンバーではないが、公式ア ドバイザーとして会議に出席できることが法律によって定められている。CI A長官の閣僚としての地位の高さは、CIA長官を務めたブッシュが大統領に なったことからもうかがえる。
国務省は日本における外務省に相当し、大統領が外交政策の立案実施にあた り助言を求める機関である。国務長官の地位は閣僚の中でも高位に属し、閣議 メンバーの正式な文書では必ず最初に国務長官がサインをしなくてはいけない。 また、大統領が死亡した場合、副大統領、下院議長、上院議長臨時代理に継ぐ 第4位の継承権をもっている。
国防総省は、職員数、組織、予算ともに極めて大きく、連邦政府で最も大き な規模をもっている。国防長官は、国務長官と国家安全保障担当官とともに大 統領の外交防衛を支えるという点でも、戦後アメリカの国防政策が最重要課題 となったという点でも、閣僚の中で重要なポストであるといえよう。
NECは、1993年クリントン政権によって設立され、経済・財政運営や雇用・ 職業訓練対策、民間技術向上策など、従来複数の省庁にまたがっていた経済政 策を総合調整する初の機関であり、「包括的経済政策」の主導的地位にある。 関係九閣僚とその他のメンバーで構成され、議長は大統領であるが、クリント ン政権において実際の取りまとめ役はルービンNEC担当大統領補佐官であった。
大統領は、行政機関を通じて自己の意思と政策を達成するために閣僚等を任 命するわけであるから、個々の大統領の政策目標を知ることが閣僚人事を理解 する上で重要な要素になると思われる。しかし、先に述べたように大統領が閣 僚を任命するにあたっては、上院の助言と承認を必要とするため、大統領は議 会との関係で様々な考慮が要求される。実際、第1期クリントン政権において 真にアメリカを代表する政府を作るという公約を掲げていた大統領は、司法長 官に女性の起用を図ったが、2人の候補が相次いで上院の承認を得ることに失 敗するという事態が起こった。
他に、閣僚の選考にあたっては、議会に勢力をもつ人間を加えること、地域 的均衡をはかること、教会や労組からも参加させること、大統領選挙に貢献し た人物を入閣させること、などの考慮が払われる場合が多い。