ネットワークコミュニケーション
わたしたちの日常生活において、ネットワークという〈つながり〉がどのように生まれ、拡がっていくのか。また、こうした〈つながり〉はどのような意味を持ちうるのか。この授業は、「ネットワークコミュニケーション」という概念をできるかぎり広い意味で理解するところからはじめます。電子メールやウェブ上の掲示板に代表されるコンピューターを介したコミュニケーション(CMC: Computer Mediated Communication)のみならず、フェイス・トウ・フェイスのコミュニケーション(FTF)をもふくめて、これからのコミュニケーションのあり方について考えます。
この授業が目指すのは、先端的な技術の可能性を理解すること、実践的なコミュニケーション能力を育むことではありません。ここでは、「ネットワークコミュニケーション的」な〈ものの見方・考え方〉が、わたしたちの日常生活のさまざまな場面とどのように関わっているか(関わっていくのか)について、個人的な体験やエピソードを中心に、描写・記述することを重視します。
とくに注目していきたいのは、わたしたちが複数のコミュニケーション・チャネルを、必要に応じて(時にはほとんど意識することなく)組み合わせたり、使い分けたりしているという点です。たとえば、ウェブ上の掲示板(電子会議室)のように、コンピューターを介したコミュニケーション(CMC)は、匿名性や非同期性、同報性などといった観点から性格づけられます。いっぽう、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーション(FTF)では、「本当の」じぶんを露出せざるをえなくなり、(少なくとも物理的には)おなじ〈場〉を共有することになります。
ひととひととの〈つながり〉を考えるとき、これらのふたつは相互に関連しながら、わたしたちのコミュニケーション機会を構成しています(いうまでもなく、他にもさまざまなコミュニケーション・スタイルがあります)。あたらしいコミュニケーションの方法が登場し、普及しはじめると、旧来のやり方が駆逐されていくという論調が目立ちますが、むしろ選択の幅が拡がり、より多重的なコミュニケーションが可能になると考えた方がよいでしょう。
こうした重層的なコミュニケーションのあり方を考えるために、2002〜2004度と同様、ひとつの実験を試みるつもりです。履修者には、第1回目(もしくは第2回目)の授業の際にハンドルネームを提出してもらいます。そして、ある課題について、グループで取り組みます。この際、ハンドルネームで、そしてウェブやメールを介して(ウェブやメールのみをコミュニケーションの機会に限定して)グループワークをすすめることになります。つまり、おなじ大学に通いおなじ授業を履修しているということは確かですが、あとは顔を見たことのないひとと一緒に考え、アイデアをやりとりします。
たとえディスプレイの上で明滅する文字であっても、たとえ書き込みをしているひとの顔が見えなくても、それは〈リアル〉な体験です。学年や性別といった属性は消失するかもしれませんが、コミュニケーションのプロセスのなかで、ハンドルネームがひとつの〈人格(アイデンティティ)〉をもった存在として位置づけられるようになるはずです。コミュニケーションに際してのルールや作法、ボキャブラリーなどが生まれることもあります。
まずは、「出会い」からです。
ハンドルネームで ------ つまりべつの〈わたし〉として ------ 〈あなた〉とネットワークで出会うことからゲームがはじまります。基本になるのは、コンピューターのディスプレイ上で生成されるテキスト(文字)によるコミュニケーションです。出会った〈あなた〉がどのようなひとなのかを判断すること、ネットワークの中の〈わたし〉の“キャラ”を呈示すること、いずれも、おもにテキスト(文字)のやりとりによってすすめます。そして〈わたし〉は、〈あなたたち〉とともにグループをつくり、ネットワークの中に〈居場所〉をさがします。グループ内・グループどうしでコミュニケーション活動をおこないながら、課題に取り組むことになります。