授業概要(アップデート)
2006年度秋学期(月曜日3時限) ■ 科目コード:36190/2単位 専門-複合系科目
ネットワークコミュニケーション
担当:加藤文俊(かとうふみとし)
メール:fk@[at] sfc.keio.ac.jp
授業ウェブ:http://web.sfc.keio.ac.jp/~fk/nc_06F/
研究室:ι407(内線 53247)
オフィスアワー:月曜日14:30~16:30(他の曜日・時間については調整します)
■注意
・課題などの性質上、履修者数を70名程度に制限します。履修希望者が多数いた場合には、第1回目に出席したひとを対象に選考をおこないます。
・履修希望者が多数の場合は、専門科目であることをふまえて3・4年生の履修を優先することがあります。
・授業に関する質問・その他は nc06 [at] qml.sfc.keio.ac.jp 宛てに送ってください(このアドレスへのメッセージは、加藤とTA/SAに送信されます)。
・授業の運営方法・内容・課題は、授業の進行状況等によって変わることがあります。
・授業内容や課題に関する連絡はおもにウェブでおこなう予定です。できるだけ頻繁に、以下のサイトへアクセスして確認してください。http://web.sfc.keio.ac.jp/~fk/nc_06F/
■講義案内
わたしたちの日常生活において、ネットワークという〈つながり〉がどのように生まれ、拡がっていくのか。また、こうした〈つながり〉はどのような意味を持ちうるのか。この授業は、「ネットワークコミュニケーション」という概念をできるかぎり広い意味で理解するところからはじめます。電子メールやウェブ上の掲示板に代表されるコンピューターを介したコミュニケーション(CMC: Computer Mediated Communication)のみならず、フェイス・トウ・フェイスのコミュニケーション(FTF)をもふくめて、これからのコミュニケーションのあり方について考えます。
この授業が目指すのは、先端的な技術の可能性を理解すること、実践的なコミュニケーション能力を育むことではありません。ここでは、「ネットワークコミュニケーション的」な〈ものの見方・考え方〉が、わたしたちの日常生活のさまざまな場面とどのように関わっているか(関わっていくのか)について、個人的な体験やエピソードを中心に、描写・記述することを重視します。
とくに注目していきたいのは、わたしたちが複数のコミュニケーション・チャネルを、必要に応じて(時にはほとんど意識することなく)組み合わせたり、使い分けたりしているという点です。たとえば、ウェブ上の掲示板(電子会議室)のように、コンピューターを介したコミュニケーション(CMC)は、匿名性や非同期性、同報性などといった観点から性格づけられます。いっぽう、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーション(FTF)では、「本当の」じぶんを露出せざるをえなくなり、(少なくとも物理的には)おなじ〈場〉を共有することになります。
ひととひととの〈つながり〉を考えるとき、これらのふたつは相互に関連しながら、わたしたちのコミュニケーション機会を構成しています(いうまでもなく、他にもさまざまなコミュニケーション・スタイルがあります)。あたらしいコミュニケーションの方法が登場し、普及しはじめると、旧来のやり方が駆逐されていくという論調が目立ちますが、むしろ選択の幅が拡がり、より多重的なコミュニケーションが可能になると考えた方がよいでしょう。
【ネコミゲー 4.0】
こうした重層的なコミュニケーションのあり方を考えるために、2002~2004年度と同様、ひとつの実験を試みるつもりです。実験は、ゲーム性をもつことから、「ネットワークコミュニケーション・ゲーム(愛称:ネコミゲー)」と呼ばれてきました。ネコミ小史については第2回目に紹介する予定です。
履修者は、第2回目の授業までに、ネットワーク上での“キャラ”を考えることになります。ここでいう“キャラ”とは、ハンドルネーム(ニックネーム)、画像(イラスト、イメージ画像など)、自己紹介文などから構成されます。そして、ネット上の“キャラ”で、ウェブやメールを介して(ウェブやメールのみをコミュニケーションの機会に限定して)グループワークをすすめることになります。つまり、おなじ大学に通い、おなじ「ネットワークコミュニケーション」という授業を履修しているということは確かですが、あとは顔を見たことのないひとと一緒に考え、アイデアをやりとりします。
毎週の授業では、ネットワークコミュニケーションについて考えるための概念を整理し、学術的な調査事例を紹介します。また、フェイス・トゥ・フェイスのグループワークもおこないます。
たとえディスプレイの上で明滅する文字であっても、たとえ書き込みをしているひとの顔が見えなくても、それは〈リアル〉な体験です。学年や性別といった属性は消失するかもしれませんが、コミュニケーションのプロセスのなかで、ハンドルネームがひとつの「人格(アイデンティティ)」をもった存在として位置づけられるようになるはずです。コミュニケーションに際してのルールや作法、ボキャブラリーなどが生まれることもあります。
まずは、「出会い」からです。
ハンドルネームで ------ つまりべつの〈わたし〉として ------ 〈あなた〉とネットワークで出会うことからはじまります。基本になるのは、コンピューターのディスプレイ上で生成されるテキスト(文字)によるコミュニケーションです。出会った〈あなた〉がどのようなひとなのかを判断すること、ネットワークのなかの〈わたし〉の“キャラ”を呈示すること、いずれも、おもにテキスト(文字)のやりとりによってすすめます。そして〈わたし〉は、〈あなたたち〉とともにグループをつくり、ネットワークのなかに〈居場所〉をさがします。
【ネコミSNS】
過去の「ネットワークコミュニケーション」は、掲示板への書き込みを中心にすすめてきました。
今年は、授業用のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を運用し、“友だちづくり”をすすめてもらいます。たとえば、ネット上の〈わたし〉が気むずかしい“キャラ”であるならば、リンクの申請を適当に拒絶しながら、こだわりに満ちた〈つながり〉を育むことになるでしょう。逆に、「友だちリスト」を広げていきたいひとは、(受け入れられる保証はありませんが)ひたすらリンクを申請してみてください。それは、ニセモノでも無意味でもない〈リアル〉なコミュニケーション体験のはずです。
具体的には、以下のようにすすみます:
1. まずは管理人(=加藤)が、履修者に対して「招待メール」を送ります。つまり、(いちおう)加藤はみんなと“友だち”になります。
2. その申請を受け入れれば、管理人の「友だちリスト」を閲覧することができる…ということになります。
3. あとは、それぞれのプロフィールを見ながら、連絡を取り合い、“友だち”をつくってみてください。このSNSに登録されるのは、基本的には2006年度の履修者ですが、TA/SA、そして過去にこの授業を履修した卒業生(OB/OG)も若干名ふくまれることになります。ただし、管理人が招待したひとしか登録できないことになっています。
4. 履修者は、学期をつうじて、SNS上のプロフィールや近況を、逐次更新してもらうことになります。授業の一環として、日記をつけたりファイルをアップロードしたりすることが求められます。
5. この実験をつうじて、ソーシャル・ネットワーキングというコンセプトを、体験的に学ぶことになります。今回は、とくにシュウカツ(就職活動・キャリア設計)を中心的なテーマにしながら、グループワークに取り組みます。
※このようなデザインで授業を運営するのは、これがはじめてです。予期せぬ展開もありえますが、その都度対応したいと思います。シラバスどおりに授業がすすまないこともありえますが、とにかく、実験するマインドを大切にし、「きちんと」考えながらやります。ときには様子を見ながら、適宜判断することになりますが、そうした姿勢に(多少なりとも)共感できないひとは、履修しないほうがいいでしょう。
※おそらく、やってみるとけっこう愉しい授業になるはずですが、そればかりでなく、SNSにおけるコミュニケーション行動、グループの生成プロセスなど、貴重な調査・研究の機会として理解することができます。そのため、この授業でのみんなのふるまいをデータとして活用し、論文執筆やその他の学術的な活動に使うことがあります。データの利用に際しては、当然のことながら匿名性を確保しますが、これについては、別途、同意書に署名をしてもらう予定です。
【エピソードを綴る】
こうした実験的なコミュニケーション環境での経験(つまり、SNSによって構成されるコミュニケーション体験)を、過去の個人的なエピソードなどをふまえつつ、「ネットワークコミュニケーション」という観点から、できるかぎり詳細に綴ることが求められます。
可能であれば、課題レポートを編集して冊子(“読み物”)としてまとめたいと思います。
■教材
下記は参考文献です。必要に応じて、クラスで資料や文献リストを配布します。
・ジェラード・デランティ(2006)山之内靖・伊藤茂(訳)『コミュニティ:グローバル化と社会理論の変容』(NTT出版)
・ダンカン・ワッツ(2004)辻竜平・友知政樹(訳)『スモールワールド・ネットワーク:世界を知るための新科学的思考法』(阪急コミュニケーションズ)
・アルバート・ラズロ・バラバシ(2002)青木薫(訳)『新ネットワーク思考:世界のしくみを読み解く』(NHK出版)
・江下雅之(2000)『ネットワーク社会の深層構造:「薄口」の人間関係へ』(中公新書)
・遠藤薫(2000)『電子社会論:電子的想像力のリアリティと社会変容』(実教出版)
・香山リカ(2002)『多重化するリアル』(廣済堂出版)
・リー・スプロウル&サラ・キースラー(1993)加藤丈夫(訳)『コネクションズ:電子ネットワークで変わる社会』(株式会社アスキー)
・小林正幸(2001)『なぜ、メールは人を感情的にするのか』(ダイヤモンド社)
・ドン・タプスコット(1998)橋本恵・清水伸子・菊池早苗(訳)『デジタルチルドレン』(ソフトバンク)
■提出課題・試験・成績評価の方法など
出席・ゲームでのふるまい(グループワーク)・課題レポート・授業態度などで総合的に評価します。少なくとも以下の2つの課題に取り組むことになります。
【その1:ネコミゲー】
学期をつうじて、できるかぎりSNSにアクセスすることが求められます。これは、個人としてばかりでなく、グループにおけるコミュニケーション、コラボレーション、課題への取り組みも評価対象になります。
【その2:ネットワークコミュニケーション的エピソードを綴る】
ネットワーキングを体験するなかでの発見や気づきばかりでなく、じぶんの個人的な体験をふまえて、レポートを書きます。詳細については授業時間に説明します。履修者全員で、〈つながり〉に関するエピソードを集めた“本”を作成するつもりでレポートを書いてください。抽象的なコンセプトとの関連が重要なことは言うまでもありませんが、これまでに、あまり「書かれてこなかった」ごく日常的なエピソードを具体的に綴る、というスタンスを大切にしてください。