2257 返信 平泉澄と戦後の文部省 URL クマ 2000/06/22 13:49

 ピエールさん、こんにちは。

 『季刊 戦争責任研究』は学術誌なので、大学ならともかく、高校以下の学校で使用する歴史教材としては難しいと思います。・・・こういうと、いわゆる小林よしのりの読者層とまともな歴史研究に触れる層との乖離、いわゆる棲み分け、という問題も出てくるのですが。

> 私が思うに、戦前にリベラルなマトモな研究者、教授はたいてい大学を追われてしまいましたよね。代わりに、平泉澄などのゴリゴリ右翼・皇国史観主義者が鳥なき里の蝙蝠のように我が物顔で跳梁跋扈していたわけです。そんな中で教育を受けた20歳そこそこのナイーブな青年が「もっていかれちゃう」のは無理も無いことだと思います。

 特に日本史(国史)の研究者は迎合するか徹底して沈黙するかしかなかったでしょう。戦後まもなくに出版された歴史書を読むと、口々に「右翼に沈黙させられた」というようなことを言っています。
 ただ、東大でも西洋史のほうはそれほどファッショ的ではなく、平泉も憤慨していたようです。
 また、考古学研究者はそうとうに悲惨な目に会っています。神武天皇だの何だの史実ではないものを史実とすることを要求される。このことに対する怒りは今の若い考古学研究者のなかにも受け継がれていますね。

 恐ろしいのは、平泉澄らの皇国史観派は戦後の歴史学会からは駆逐されますが、平泉教授の親衛隊的組織だった「朱光会」は戦後、文部省で教科書調査官や教科調査官を勤めているんですね。たとえば教科書検定で最初の調査官だった例の村尾次郎氏、この人も朱光会出身ですし、家永教科書裁判の第三次裁判で問題の検定を行った時野谷滋氏(日本教文社から『家永教科書裁判と南京事件』という本を出しています)、戦後はじめて教育に「神話」を導入した教科調査官の山口康助氏、これらの人は朱光会の会員でした。

 したがって、

>「歴史は繰り返す」?。

 というよりは、戦前の皇国史観の残滓を、教育分野や一般世論の分野で清算しきれずに今までつながってしまったといえると思います。小林や西尾・藤岡といった各氏の歴史改竄主義を受け入れる土壌を残してしまっていたということです。

> 案外、キリスト教ってのは、体制順応的な面があるのかもしれません。

 私も渡辺さんと同じで、ひろさちや氏は俗説に近いような文を書きますのであまり信頼していないのですが、キリスト教は日本の宗教界では、おそらくもっとも進歩的であり、社会運動への参加の度合いも大きいと思います。
 世界的に見ても、カソリックの「解放の神学」(おそらくINTI-SOLさんがお詳しいでしょう)、プロテスタントの「民衆の神学」など、社会観に社会科学の分析の手法を取り入れて社会運動に取り組んでいく大きな潮流が存在します。
 
> 荒井先生は飯能の駿河台大学で取材しました。極めてマトモな歴史家ですね。

 直接お会いしたんですか、いいですねー。
 著書『戦争責任論』は名著だと思います。

> 現在、民主党の田中甲衆議院議員が「恒久平和局」の設置に積極的に動いています。戦争犯罪関係の史料をすべて白日の下に晒し、戦争責任を追及するとともに、戦争被害者の救済窓口にもなるというものです。

 こういう人こそ当選してほしいものです。
 なお、『季刊 戦争責任研究』28号には、「恒久平和のために真相究明法の成立を目指す議員連盟」でのエイブラハム=クーパー氏の講演が掲載されています。とても感銘深いものです。


> 私は、「日本軍性奴隷制度」という表記が実態を最も正確に表していると思います。

 私はいわゆる「慰安婦」の呼称については少し悩んでいます。実態としてはそれが正鵠を得ていると思う反面、非常に強い印象を与える呼称なので、印象だけが一人歩きしかねません。
 難しいところですが、今のところ私は「軍慰安婦」と呼ぶことにしています。

 それでは、失礼します。