13429	返信	Re:ナチスの経済政策ほか： kizimun様帽子屋様ベルナール様	URL	帽子屋	2002/03/11 21:33
ＭＥＭＯ様。ご丁寧な調べご苦労様です。＊＊ 13341番帽子屋様＊＊ >>ナチス・シャハトも日本・高橋是清もそうですが、この時期＜財政家＞が大きな脚光を浴びます。この時期は、国際金本位制＝自己調整市場という＜対外均衡＞重視から、管理通貨制＝国家の市場管理という＜国内均衡＞重視へ、経済体制だけでなく国家体制をふくめた大転換が行われた時期ですから、この転換を主導して国内の政治的均衡重視＜ここでは失業対策＞を推し進めた試みはそれなりに評価できると思います。しかしその結果まで考えていますか？ライヒスバンク・日銀とも大量の通貨増発により、失業を根絶しましたが、極端な＜国内均衡＞重視で、＜対外均衡＞無視を行ったため、対外為替レートは暴落の一途をたどります。 > ドイツと日本では事情が違います。経済を立て直し、失業を減らしたというところまでは共通しますが... > 1931年１ドル＝4.16マルク＝2.05円＝0.221ポンド＝25.3フラン > 1936年１ドル＝2.47マルク＝3.45円＝0.201ポンド＝16.7フラン > （昭和国勢総覧東洋経済新報社第２巻 10-21 より計算） >御覧のように、円が暴落したのに対し、マルクはむしろ騰貴しています。シャハト（1933－39ライヒスバンク総裁）は高橋（1931－36蔵相）と異なり、インフレに対する警戒心を強く持っていたようで、当初ライヒスバンクでは日銀のような公債の引き受けを行いませんでした。そういう制約の下での景気回復策として、シャハトは「メフォ手形」を考案したのでしょう。残念ながら5割正しく、5割間違っています。前回の私の投稿で、景気回復後マルクの交換性危機が生じ、シャハトが資源総動員型軍拡　に反対して辞任、軍事物資を輸入する外貨不足から、バーター取引にいたったことについて書いておりますが（輸入品を自給するため、新技術を開発するあたりさすがドイツなのですが、この手の代替産業は非能率であり、資源不足を資本と労働力の総動員でカバーするため、1937年段階で労働需給が逼迫することになります）、それが本格化するのは1936年以降のことで、1936年の外貨レートを使われても少し困るのですが。国内均衡を優先し非能率な産業開発を許す管理通貨制度は、ナチスと日本の経済政策（ソ連を含めても良いかもしれませんね）に胚胎しているという話なので。それとその表の見方はあまり感心したものではありません。なぜこの時期貨幣価値が最も安定していたフランで比較しないのでしょう？ちなみに１００フランあたりの交換レートは以下の通り。 28年度　100フラン＝16.52マルク＝3.94ドル＝0.81ポンド＝8.45円 29年度　100フラン＝16.43マルク＝3.92ドル＝0.81ポンド＝8.44円 30年度　100フラン＝16.44マルク＝3.92ドル＝0.81ポンド＝7.82円 31年度　100フラン＝16.56マルク＝3.93ドル＝0.88ポンド＝8.00円 32年度　100フラン＝16.53マルク＝3.92ドル＝1.12ポンド＝13.89円 33年度　100フラン＝16.52マルク＝5.00ドル＝1.18ポンド＝19.34円 34年度　100フラン＝16.60マルク＝6.56ドル＝1.30ポンド＝22.05円 35年度　100フラン＝16.25マルク＝6.60ドル＝1.34ポンド＝22.69円. 36年度　100フラン＝16.29マルク＝6.57ドル＝1.32ポンド（出典『社会経済月報』34年までは通年平均、35年は9月平均、36年は８月の最高最低中間値で算出）ここから言えることは、まず第一にマルクがドルに対し騰貴していると判断すべきではない点です。これは、ドルが1933年に1オンス20ドル台から35ドルへ金平価を切り下げたことよるものです。それ以外の要因が存在しないことは、極めて安定的に対ドル相場が推移していることから分かります。第二に、これは主要国通貨の金平価切下げ競争により引き起こされた事態であることを示しています。これにより1／３近い日本円の対ドル下落が結果として3.15円にしかならないように数字のマジック（詐欺）が起きてしまうのですね。アメリカのドル通貨圏、スターリング（ポンド）通貨圏、そして日本の円ブロック構想と並べてみれば、これらの地域は経済的にブロック化を打ち出している様が窺えます。Memo様の1ドルあたりの通貨表記はこの事態を隠蔽してしまうものです。そして最後かつもっとも重要なことは、マルクがフラン圏（ヨーロッパの金本位維持国）に対し、ほとんど固定相場に近い状態で推移していることが示されていることです。これは明らかに人為的操作といえるものです。これが意味することは、専門書が読める環境ならすぐにでもＭＥＭＯ様にお伝えできるのですが、残念ながらそのような環境ではないので推測でしかありませんが、若干述べますと、①フラン圏諸国へのドイツの経済的依存の高さ、②日本の輸出型景気回復戦略を最初から考慮に入れず、完全な軍事工業化の輸入のため（輸入割当制度を採用している）の外貨の有効活用（確かチェコ・オーストリア併合で得た外貨はドイツの持っていた外貨に匹敵したとか）の方が重視された、③外国への資金流出への恐れ、などがあるのかもしれません。そのため輸入割当制度を採用していたにもかかわらず外貨は急激に減り、労働力調達も限界に達し、生存圏拡大を嗜好することになります。為替レートが上がったのではなく、下げることができず外貨が急激に流出したのです。 1937年以降、ドイツ経済の逼迫期については今のところ資料もありませんし、ここまでです。ライヒスバンクの輸入信用割当と為替操作、外貨残高の推移については、memo様の方でお調べいただければ幸いです。 >> 中央銀行引き受けによる資金調達と内需拡大（＝為替レート下落）であらゆる無茶苦茶をやれば、普通どう転んでも失業がなくなるのは当然だと思いますよ。 >　この評は、ナチスの経済政策に対しては当たらないと考えます。為替レートを下げなければ外貨が流出するだけです。