17843 | 返信 | 「馬鹿野郎」事件について | URL | トルティーヤ | 2003/01/23 00:26 | |
>inti-solさん 僭越で恐縮ですが、補足のコメントを入れますね。 > で、東条英機ですけれど、彼も個人独裁者ではなく日本陸軍という集団独裁体制の歯車の一つであったことは事実ですが、しかしその「歯車」の一つとして、東条は首相でかつ陸軍大臣を兼ね、陸軍の人事権を握っていた。東京憲兵隊も思うままに使える立場だった。東条に逆らうと非軍人は懲罰招集されるし、軍人はどうなるか。大本営陸軍部の作戦部長という、陸軍のエリート中のエリートであった田中新一少将は、ガダルカナル戦の終結を巡り、東条と口論の挙げ句「馬鹿野郎」と叫ぶと、直ちに更迭されました。 ◇この「馬鹿野郎」事件は、ガダルカナル戦の敗北を恐れた田中少将が戦力維持のため民間商船の追加徴用を求めたことが発端となっています。 ガダルカナル戦以降民間船舶の損失がうなぎ上りとなり、ついに国力と戦力を支えるに必要最小限である総トン数約600万トンのラインを切ってしまいました。国力を支えるために必要な民需船舶は約300万トン(企画院の主張)、兵力増強のために必要な徴用船舶も約300万トン(大本営陸海軍部の主張)でした。これではどちらか一方を犠牲にせざるを得ませんでした。 しかし民間船舶がないと軍艦や航空機製造に必要不可欠な鉄・石油・ボーキサイト・ゴム・砂糖・米を輸送する事が出来ません。これでは戦力維持が出来ませんし国民経済が崩壊します。それでも前線の戦力増強を図らないと戦線崩壊の危険がありました。むしろこのことは東條首相も陸軍省も企画院もそして田中少将も先刻承知のことでした。これはおのずから日本の敗北を決定付けるものでした。 実はこの「馬鹿野郎」事件の前日、田中少将は戦力維持を図必要に迫られた陸軍軍務局長佐藤賢了少将(「黙れ!」事件で有名です)が民間船舶約18万トンの返却を田中少将に求められたところ、憤慨して殴りかかり、慌てて止めに入った上官に「あんたは黙ってすっこんでろ!」と押し返し、殴り合いとなる事件がありました。 そしてその翌日、政府に再考を促す田中少将は国民経済と戦力の崩壊を恐れた企画院や東條首相との押し問答を続けた結果、田中は「この馬鹿野郎が!」と怒鳴り東條は「何を言いますか!」と言い返しました。 その後の田中少将の顛末はinti-solさんのおっしゃられたとおりになりました。「東條憲兵」といわれた恐怖政治ゆえです。 その後日本はアメリカの高速空母艦隊と潜水艦による攻撃で民間商船は実に843万総トンを撃沈され、あまりにも多くの船員が戦禍に倒れ冷たい海に飲み込まれていったのです。陸軍が勝算の無い無謀な戦争をはじめ、海軍がシーレーン防衛を軽視し続けた結果がこれです。あまりにも愚かな戦争でした。 |
||||||
![]() |