26325 返信 CNN「中国軍残虐写真」斬首の写真の素性 URL 渡辺 2004/04/08 03:08
CNNの下記のサイトに掲載されている Quick Time ムービーの1枚目の写真は、小林よしのり『戦争論』(幻冬社,1998年)p.168 の画に使われている斬首の写真です。
"Photos document brutality in Shanghai"
http://www.cnn.com/WORLD/9609/23/rare.photos/

(1)写真(上記サイトの Quick Time ムービーより)


この写真については、下記の頁に興味深い記事が掲載されています。
http://homepage1.nifty.com/SENSHI/other/sonota2.htm
この頁の作者は、断定を避けて慎重な記述をしていますが、CNNのキャプションが誤りで「1 毎日新聞社や中央公論新社の情報が正しく、CNNの情報は間違い。2枚の写真は、どちらも1921年に撮られたもの」と考えているようです。
私も「1」の可能性が高いと考えています。(年代については異論がありますが)
この写真で刀を持っている人は、特徴的な服装をしています。
実は、海外のオンライン・オークションで「南京虐殺」の生写真として出品されていたものに、よく似た服装の人物が南京で「学生」の斬首をしているものを見たことがあります。
そこで、『南京旧影』(人民美術出版社,1998年)を見ましたら、p.40 に下に掲載の写真がありました。

(2)「連合軍の入城。隊伍は清両江総督署のへいに沿って進む。(1911年撮影)」


(3)上の写真の中央部


右側の後向きの人物の服装はCNNの写真とよく似ています。
これは、軍閥の服装ではないかと思われます。
従って、この写真は 1937年の上海で撮影されたものではないというのが、私の考えです。
とは言え、「1921年の上海における、国民党による共産党員の公開処刑を撮影したもの」というのも、疑問な点があります。
1921年といえば中国共産党が結成された年で、1924年に第一次国共合作、1925年孫文死去、1927年に上海で労働者が武装蜂起し、蒋介石のクーデターになるわけです。
ということは、「1921年の上海における」は 「1927年」の間違いでしょう。これが、1937年と間違えられて、伝えられたのかも知れません。

なお、小林『戦争論』で、日本軍の捕虜が処刑されたという刑具については、上杉聡『脱戦争論』(東方出版, 2000年)p.64-66 の論考が当を得たものと思われ、この写真は 1910年代に溯るのではないかと思われます。

以上を総合してしてみると、これらの残虐写真は1920年代以前に撮影された可能性が高いといえます。
これは、日中戦争以前に上海で売られていたとされる他の残虐写真を見たときの感想でもあります。
日中戦争によって、日本軍兵士によって撮影された新たな残虐写真が流布するようになったのではないかという推測をしています。
今後、さまざまな時代の写真を調べて、更に証拠を集めてみたいと思います。

CNN報道の写真は日中戦争とは関係なく、また上海で販売されていた写真の可能性が高い、ということを結論といたします。

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最後に、小林よしのり『戦争論』の書き方が、不誠実なものであるとの印象をもたざるを得なかったと言いたいと思います。
例えば、「日本を悪魔に仕立て上げたニセ写真」pp.158-159 では、LIFE 1937年10月4日号の上海南駅の「赤ん坊」の写真を紹介しています。
しかし、この記事をよく読むと、この写真が「ニセ」である根拠をあげていないのです。
「わざわざ(赤ん坊が)一人のを撮ってイメージ操作している」ことを問題にし、写真が「ニセ」とは小林氏は言っていないのです。こういうやり方は、不誠実です。
前後関係も写されているニュース映画があるわけですから、「ニセ」と考えるのは困難です。
このような写真さえ「ニセ」と疑いながら、CNNが報道した写真を、検証することなく「本物の残酷写真」p.168 として報道内容をそのまま真実と決め付けてしまうのは、お粗末としか言いようがありません。