36375 返信 グランサコネ通信05−26 URL 前田 朗 2005/08/21 21:21

(1)デコー報告書

エマヌエル・デコー委員の「国際人権条約の普遍的履行」という報告書(E/CN.4/Sub.2/2005/8)に、安保理事会構成国の条約批准(または署名)状況が一覧表にまとめられています。

自由権規約、社会権規約、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約、子どもの権利条約、移住労働者権利保護条約の7つについて、全部批准・署名している国(アルジェリア、アルゼンチン、フィリピン)、拷問等禁止条約を批准していない国(タンザニア)、移住労働者権利保護条約を批准していない国(ベニン、ブラジル、中国、デンマーク、アメリカ、ロシア、フランス、ギリシア、日本、タンザニア、ルーマニア、イギリス)。安保理事会以外では、コモロ、バーレーン、ブータン、ブルネイなど28カ国は2つの国際人権規約を批准していません。

1949ジュネーヴ諸条約、第一追加議定書、第二追加議定書、ジェノサイド条約、国際刑事裁判所規程の5つについて、全部批准・署名している国(アルジェリア、アルゼンチン、ブラジル、デンマーク、ロシア、フランス、ギリシア、タンザニア、ルーマニア、イギリス)、第一議定書を批准していない国(アメリカ、フィリピン)、第二議定書を批准していない国(アメリカ)、ジェノサイド条約を批准していない国(ベニン、日本)、国際刑事裁判所規程を批准していない国(中国、アメリカ、日本)。アメリカが3つ批准していないのが目立ちますが、日本は昨年2つの追加議定書を批准するまでは4つ批准していなかったのです。安保理事会以外で日本と同じように3つ批准しているのはインドネシアとイランです。

報告書は、事務総局報告書や人権委員会報告書・決議・勧告等を整理したうえで、ILOが185の諸条約についての7087の批准の状況を体系的に整理していることを特筆しています。ちなみに、フランスが97批准、イタリアが92、ドイツが68、イギリスが66、ロシアが51、日本が39、カナダが28、中国が20、アメリカが12となっています。


(2)ジャパン・ナイト

16日、ジュネーヴ郊外の丘の上にある国際改革センター・ジョンノックスで、日本友和会主催の「ジャパン・ナイト」が開かれました。国際民主法律家協会が開いてきた「ジャパン・デー」を参考にして、大人だけではなく、子どもたちの交流の場にもしたいという企画です。8月10日の「グランサコネ通信05−23」で次のように紹介したバルク良子さんの企画です。

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<日本友和会(JFOR、バルク良子)>発言概要

先週、人権小委員会に入ろうとした母親と子どもたちが、13歳未満の子どもは入れないということで、国連に入れなかった。これでは母親や女性は効果的に活動できない。女性は家庭で働き、男性が外で働くというのは不公正である。男女平等を真に考えるなら、国連などの職場にも児童保育が必要である。就学以前だけでなく就学後の子どもも含めて児童保育が設置されるべきである。若者は国連の見学や図書館に行ったり、他国の子どもと出会えるようになる。日本友和会は、昨年この問題について調査して報告書を書いている。結論として国連ジュネーブ本部に国際的デイケア・サービスの必要性を示している。人権小委員も、国連職員も、政府代表も、NGOにも必要である。日本軍性奴隷制については、日本友和会の提出文書を参照して欲しい。

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バルクさんは神戸で国際幼稚園を経営しているので、こうした企画を思いついたのです。16日のジャパン・ナイトには、人権NGOの活動家や、ジュネーヴ在住の日本人など約20人が参加しました。子どもは6人。夕食、歌、お話の集いです。


(3)軍隊のない国家・ヴァチカン

世界一小さな国家として知られるヴァチカンへ行ってきました。従来は、サン・ピエトロ寺院や宮殿の博物館のラファエロやミケランジェロが目当てでしたが、今回は軍隊のない国家めぐりです。なにしろ人口900人の超ミニ国家で、「普通の国家」イメージからはあまりにもかけ離れているのですが、「普通の国家」なるものが、それ自体、極めて恣意的に作り上げられたイメージにすぎません。ヴァチカンは国連には加盟していないが、オブザーバーとして参加している主権国家です。今回の人権小委員会にもヴァチカン代表の席がありました。実際には参加していなかったかもしれませんが。

ヴァチカンは、教皇や枢機卿やらといった人々と、観光客と警備員と売り子の国です。売り子や警備員は資料によると1300人とも3000人とも出ていますが、ほとんどがローマに住んでいる「外国人労働者」です。軍隊はありませんが、教皇の警備のためにスイス衛兵がいることは有名です。2つの入り口に配備されていました。観光客がみな撮影するスポットです。資料を4冊ほど入手してきましたが、インターネットで入手できる情報より若干詳しい程度です。

(4)軍隊のない国家・サンマリノ

欧州では3番目に小さい、世界では5番目に小さいといわれるサンマリノは、同時に世界一古い共和国です。イタリア東部のティターノ山の頂上に首都サンマリノがあり、麓の町も含めた領土で、人口は3万程度。首都は山頂の斜面にへばりついた町で、完璧に観光の町になっています。かつての3つの要塞(塔)が見所です。政府庁舎のすぐ近くのホテル・ティターノのレストランのテラスで沈む夕陽を眺めながら、ディナーは「3つの塔コース」とサンマリノ・ワイン。教会や博物館などまわりましたが、首都には本屋がありません。全く見かけないので、何人かに聞いてみましたが、ないとのことです。首都は観光用のショーウインドウになっているので、地元の人の本屋は他の町にあるのではないかと思います。

軍隊のない国家ですが、ここも政府庁舎の警備兵、要塞の警備兵がいます。職務は主に儀式と警察任務です。かわいらしい制服で立っていました。9月3日の建国記念日には、ボウガン大会が開かれるそうです。民俗芸能といったほうが早い。

政府庁舎のパンフ、美術館のパンフ、観光客向けのガイド以外は入手できませんでしたが、国立博物館で買った英文資料などには、従来言われているのとは違った建国伝説が書いてありました。日本では一般には、301年にローマ皇帝によるキリスト教迫害から逃れた石工のマリノが住み着いたことに始まるとされていますが(外務省ウエッブサイトほかのネット情報、観光ガイドなど)、ある資料にはリミニの港の建設工事に来たと書いてありますし、他の資料には石材を堀りに来たと書かれています。実際、ティターノ山は石材の産地で、今もサンマリノの主要輸出品は建設用石材です(主要産業は観光です)。

帰りがけになって町のはずれにマハトマ・ガンディー像があることがわかり、あわてていってきました。「インド人民とサンマリノ人民の友好、1985年」。軍隊のないサンマリノと、非暴力抵抗のガンディー。そのあたりのことは今回調べる余裕がなかったので、また行ってくる必要があります。