36699 返信 人民の武装権 URL 小林 哲夫 2005/09/10 09:09

日本の民衆は秀吉の刀狩で武装を解除されて以来、武器を全く持っていなかった、というイメージが有りますが、実は民間には相当の武器が保有されていました。

日本刀については戦後占領軍によって3百万本ほど没収されましたが、それでも現在銃刀法による登録数は2百万本を越えています。
つまり戦前の民間の日本刀保有総数は5百万本に上り、3世帯に一本の割りになります。
これは江戸時代以来持ち越されたものと想像できます。

江戸幕府は入り鉄砲に神経質だったから、民間に鉄砲など有るはずがない、という先入観が有りますが、実はこれも間違いです。
農民は害鳥獣駆除のための鉄砲の所有は認められていました。
例えば松本藩は幕府の軍役として課された鉄砲が200挺でしたが、1687年の鉄砲改めで村々に1000挺もの鉄砲があることがわかりました。うち半分は没収しましたが、後の半分は公認されました。
村々の鉄砲の保有数は、仙台藩3984挺、尾張藩3080挺、紀州藩8013挺、長州藩4158挺という調査があります。

つまり日本の民衆は西洋と同じく武装の権利を放棄することは無かった、権力もこの権利を奪うことは出来なかったということです。

しかし日本の特徴はこの武装の権利を封じ込めて、武器を使用しなかったことにあります。
江戸時代に沢山の百姓一揆がありましたが、百姓側の得物は鎌、鍬だけでした。(一揆総数1430件のうち例外は幕末に14件のみという調査有り)
百姓側、権力側双方ともに鉄砲は使わないという強固なコンセンサスが出来ていました。
「持っていたけれど使わなかった」というところが、江戸時代の凄いところです。


戦後サヨクは日本の民衆は権力に対して従順に生きることを伝統として来て、権利意識が無く、自己武装などは考えもしなかったと思い込んでいます。
丸山真男はそういう誤解の上に、人民の自己武装を市民権と絡めて肯定的に論じています。
しかし日本の民衆には権利意識が無いなどという先入観は、まさしく自虐史観にほかなりません。
日本人は権利意識が旺盛であったが、それ以上に権利の行使に慎重であった、と認識を改めて欲しいと思います。