2004年度秋学期 研究プロジェクトB(1) シラバス
新しい社会システム論の探究
Laboratory for Social System Theory
形態: B (テーマ別研究プロジェクト, 週1回2単位)
担当: 総合政策学部 井庭 崇 (いば たかし)
曜日時限:火曜5限
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目的・内容
本研究プロジェクトでは、社会を「システム」として捉える視点を身につけ、社会現象の分析や問題解決を行うことを目指します。今期のテーマは、「オートポイエーシス」(自己創出)の考え方を中心とした最新の社会システム論です。
オートポイエーシス的なシステムとは、自分自身を不断に創出し続ける自律的なシステムのことです。もともとは生命組織のシステム論として考えられたものですが、これを社会学に取り入れ、社会システム理論を構築したのが、二クラス・ルーマン*1です。ルーマンは、社会システムの構成要素はコミュニケーションである、と考えました。そして、社会は、コミュニケーションがコミュニケーションを生むオートポイエーシス的システムになっているという理論を打ち立てました*2。そのような社会システム理論をもとに、ルーマンやその後継者たちは、政治、行政、宗教、経済、家族、学、教育、歓談、看護といった幅広い対象について考察しています。
今学期は、全体の共通目標として、二クラス・ルーマンの主著のひとつ『社会システム理論』の読解と理解を目指します。かなり難解かつ分厚い本ですが*3、「今後の社会学理論の展開はルーマン抜きにはありえない」とも言われたルーマンの理論に果敢に挑戦していきたいと思います*4。 個人研究では、輪読や議論で得られた知的刺激を反映しながら、各自の問題意識にもとづく具体的な社会現象についての分析・問題解決を行ってもらいます。
*1 Niklas Luhmann (1927〜1998)
*2 ルーマンの理論に登場するキーワードには、次のようなものがあります。 社会システム / システムと環境 / オートポイエーシス / 複雑性の縮減 / 自己準拠 / 再帰 / コミュニケーション / 情報, 伝達, 理解 / ダブル・コンティンジェンシー(二重の偶発性) / 選択 / 自律性 / 心的システム / 観察 / 同一と差異 / 構造的カップリング / 意味 / システム分化 / 創発 / 正統化 / メディア / 閉鎖性と開放性 / ネットワーク / 道徳 / 時間 / 言語 / 進化 / 相互浸透 / 期待 / 矛盾 / 相互作用 / 認識論。
*3 ルーマンの難解さについては、次のようなことが言われています。「ルーマンの著作に親しんだことのある者は多かれ少なかれ、めまいといらだちの感覚を味わったことがあるはずだ。『オートポイエーシス』に代表されるように、広範な学的諸分野から次々と新しい用語を取り入れて議論の範囲を拡大していく、そのスピード感からくるめまいの感覚。その一方で、むしろ明快かつ単純な文章で議論が展開されているにもかかわらず、いったい議論全体がどこに向かっているのかが、まったく理解できないといういらだち。・・・」(馬場 2001)。
*4 ルーマンの理論の意義については、次のようなことが言われています。「N.ルーマンの社会システム理論は現代社会学理論においてもはや無視しえない格別の地位を占めている。なによりも、ルーマンの社会システム理論は、社会的なものに関する厳密な科学として社会学を構築することに成功しえたからである。」(佐藤 2000)
授業形式・形態
研究プロジェクトは、知らないことを理解する「勉強」の場ではなく、付加価値のあるアウトプットを出すための「研究」の場です。研究プロジェクトは、いわゆる「授業」とは異なるという点を意識し、受け身の姿勢ではなく自らが創りあげていく気持ちで臨んでください。
- 指定文献の輪読
今学期読むものは、二クラス・ルーマンの『社会システム理論』(上)(下)です*5。 そのほか必要に応じて、推薦文献等によって視点や話題を共有し、研究のヒントを得ます。
*5 『社会システム理論』は、上下巻合わせて約1000頁あります。しかも、読み物というよりは、分厚い理論メモのようなものだと考えた方がよいでしょう。そのため、実はこの本だけでは、理解が難しいと思うので、補足として解説書やルーマンの他の本を貪欲に読み、議論していくことが必要です。
- 個人研究
各自の問題意識に基づき、具体的な社会現象についての問題解決を行ってください*6。 研究成果は、学期末にしっかりと論文にまとめ、発表会でプレゼンテーションをしてもらいます。研究成果は、Webや冊子などのかたちで公開します。
*6 社会システム論は「捉え方」という抽象的なものなので、その意味を実感するためには、具体的な事例で考えてみることが必要です。そのため、各人が興味・関心のドメインをもち、個人研究を進めていることが重要です。
授業スケジュール
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評価方法
輪読や議論での活躍度、個人研究の論文とプレゼンテーション、および研究プロジェクト関連の諸活動によって総合的に評価します。
履修条件
- 自ら関連文献にあたっていくなど、積極的に輪読に取り組める人。
- 難解な概念に出会っても、考え抜いたり議論したりしようとする姿勢の人。
- ゼミの時間以外に、自分で個人研究を進めていける人。
受け入れ予定人数
15名程度
エントリーと選抜の方法
■ 第一段階履修を希望する人は、まず7月16日(金)までに、以下の情報を書いて、メールでエントリーしてください。宛先は iba@sfc.keio.ac.jp で、サブジェクト(件名)を「研究プロジェクトB1 履修希望」としてください。
(1) 氏名,ログイン名,学籍番号
(2) 簡単な自己紹介(興味のあること・分野など)
(3) 個人研究で取り上げる予定の現象・問題
(4) これまで所属した研究プロジェクト
(5) 来学期、並行して所属する予定の研究プロジェクト
(6) これまでに履修した担当教員(井庭)の授業
(7) 研究プロジェクトに関する質問・相談(あれば)
※ 研究テーマや内容、方法に関する相談は、メール等で受け付けます。
■ 第二段階エントリーを出した人は、7月23日(金) までに、具体的な個人研究計画(1、2ページ程度)をメール添付で提出してください。宛先は iba@sfc.keio.ac.jp で、サブジェクト(件名)を「研究プロジェクトB1 個人研究計画」としてください。
■ 第三段階
7月26日(月)〜7月30日(金)あたりに面接を行います。詳細は、メールでお知らせします。
※ 見に来るだけの聴講は認めません。なんらかの事情により正規履修できない場合(大学院生等)の聴講者も、同じタスクをこなしてもらうこととし、正規履修者と同様のプロセスで選抜します。「聴講」である旨と、その理由を明記の上、第一段階のエントリーを行ってください。
連絡先(履修希望・質問等)
輪読で用いる書籍(必ず購入してください)
『社会システム理論(上)』(二クラス・ルーマン, 恒星社厚生閣, 1993, 全479頁, ¥7,949)
序章 システム理論におけるパラダイム転換
第1章 システムと機能
第2章 意味
第3章 ダブル・コンティンジェンシー
第4章 コミュニケーションと行為
第5章 システムと環境
第6章 相互浸透
『社会システム理論(下)』(二クラス・ルーマン, 恒星社厚生閣, 1995, 全515頁, ¥7,949)
第7章 心理システムの個体性
第8章 構造と時間
第9章 矛盾とコンフリクト
第10章 社会と相互作用
第11章 自己準拠と合理性
第12章 認識論への諸帰結
『ルーマン 社会システム理論』(ゲオルク・クニール, アルミン・ナセヒ, 新泉社, 1995, 全244頁, ¥2,625)
『ルーマンの社会理論』(馬場 靖雄, 勁草書房, 2001, 全238頁, ¥2,940)
『社会の法 <1><2>』(ニクラス・ルーマン, 法政大学出版局, 2003)
『法の社会学的観察』(ニクラス・ルーマン, ミネルヴァ書房, 2000)
『オートポイエーシス・システムとしての法』(グンター・トイプナー, 未来社, 1994)
『社会の経済』(ルーマン, 文真堂, 1991)
『貨幣論のルーマン:社会の経済講義』(春日淳一, 勁草書房, 2003)
『経済システム:ルーマン理論から見た経済』(春日淳一, 文眞堂, 1996)
『教育現象のシステム論』(石戸教嗣, 勁草書房, 2003)
『ルーマンの教育システム論』(石戸教嗣, 恒星社厚生閣, 2000)
『教育人間論のルーマン:人間は<教育>できるのか』(田中智志, 山名淳 (編著), 勁草書房, 2004)
『宗教システム/政治システム:正統性のパラドクス』(土方 透 (編), 新泉社, 2004)
『手続を通しての正統化』(ニクラス・ルーマン, 風行社, 1990)
『信頼―社会的な複雑性の縮減メカニズム』(ニクラス・ルーマン, 勁草書房, 1990)
『リスク論のルーマン』(小松丈晃, 勁草書房, 2003)
『オートポイエーシス:生命システムとはなにか』(H.R.マトゥラーナ, F.J.ヴァレラ, 国文社, 1991)
『オートポイエーシス:第三世代システム』(河本 英夫, 青土社, 1995)
『システムの思想:オートポイエーシス・プラス』(河本 英夫, 東京書籍, 2002)
『メタモルフォーゼ:オートポイエーシスの核心』(河本 英夫, 青土社, 2002)
『オートポイエーシスの拡張』(河本 英夫, 青土社, 2000)
『オートポイエーシス2001:日々新たに目覚めるために』(河本 英夫, 新曜社, 2000)
『創造の方法学』(高根 正昭, 講談社現代新書 553, 1979)
『社会科学のリサーチ・デザイン;定性的研究における科学的推論』(G.キング, R.O.コヘイン, S.ヴァーバ, 勁草書房, 2004)
『創造的論文の書き方』(伊丹敬之, 有斐閣, 2001)
『ひと月百冊読み、三百枚書く私の方法』(福田和也, PHP研究所, 2001)
『「超」文章法』(野口悠紀雄, 中公新書, 2002)
『考える技術・書く技術:問題解決力を伸ばすピラミッド原則』(バーバラ・ミント, 新版, ダイヤモンド社, 1999)
履修を考えている人へのひとこと
- 本研究プロジェクトは、2004年度が1年目です。みなさんと一緒に試行錯誤しながら、ゼミ運営を行っていきたいと思います。
- 今回、春学期に行った井庭研1・2の内容を再編成しました。井庭研1は「捉え方」(視点・枠組み)、井庭研2は「方法」(方法論と道具づくり)についての研究プロジェクトと捉えてください。
- 担当教員(井庭)からの知識伝達の多くは、授業で行う方針です。秋学期に担当する「モデリング・シミュレーション入門」と「探索的モデリング」のうち、特に「モデリング・シミュレーション入門」では、システム論、モデリング、シミュレーションについて導入的な講義を行うので、履修もしくは聴講することを強くお勧めします。
その他・留意事項
本研究プロジェクトの担当者は有期教員であり、残り年数は3年〜5年です。