2004年度春学期
研究プロジェクトB(2) シラバス
社会シミュレーション ラボ
―シミュレーションによる社会分析と学習支援―
Laboratory for Social Simulation: Analyzing and Learning Societies with Computer Simulations
形態: B (テーマ別研究プロジェクト, 週1回2単位)
担当: 総合政策学部 井庭 崇 (いば たかし)
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目的・内容
現在の科学研究では、「シミュレーション」が理論を発展させるための重要な方法となっています。シミュレーションとは、モデルを時間的に展開させることであり、そのモデルの特徴についての経験的な知見を得るために用いられます。また、コミュニケーションや組織学習のメディアとして、シミュレーションを用いることも可能になりつつあります。つまり、頭の中に構成された社会的現実をシミュレーションとして外部化することで、動的な社会・経済のイメージを他者と共有することができるようになるのです。このように、科学研究やコミュニケーション、教育などのさまざまな分野で、シミュレーションが新しい世界への扉を開きつつあります。
本研究プロジェクトでは、「社会シミュレーション」の考え方と技術を、現実社会にどのように応用できるかを考え、実践します。そのアプローチとして、次の2つを想定しています。
(A)シミュレーションによる社会分析研究
社会分析の研究では、政治・経済・ビジネス・組織・文化などの分野から、各自が興味・関心のある現象を選び、モデル化とシミュレーションの作成・分析を行います。具体的な現象分析をするとともに、それを通じてシミュレーションの有効性と可能性を明らかにしていきます。
(B)シミュレーションによる学習支援研究
シミュレーションでの体験を通じて物事を理解・学習する、という新しい学習方法について研究します。具体的には、企業や教育現場における個人・組織学習への応用・実践や、その効果的な教授法の研究、教材(ガイドブックやビデオ)の作成などを行います。
なお、モデル化には、オブジェクト指向とUML(統一モデリング言語)を用います。シミュレーションの作成・実行には、BESP(Boxed Economy Simulation Platform:SFCで開発された社会シミュレーションのプラットフォーム)を用います(これらの考え方や使い方についても、本研究プロジェクトを通じて徐々に学んでください)。
授業形式・形態
- 担当教員の推薦する文献や、各自が見つけた面白い文献を輪読して、視点や話題を共有し、研究のヒントを得ます。
- 個人またはグループで、上記の(A)または(B)の研究に取り組みます。具体的な研究テーマは、担当教員との相談の上、各自で設定することができます。途中成果も随時発表し、コメントし合います。最終的には、研究レポートとしてまとめ、プレゼンテーション発表を行います(成果は、Webや冊子のなかで公開し、特に優秀な論文については、より洗練・修正した上で、担当教員との共同論文として学会発表したいと考えています)。
授業スケジュール
未定 (履修者の興味・関心、人数等によって調整します)。
評価方法
最終レポートとプレゼンテーション、および日頃の研究関連活動によって総合的に評価します。
想定される参加者
社会科学の分野にいる人で、自分の関心のある現象をシミュレーション分析したい人。
ビジネスに興味のある人で、ビジネスモデリングを探究・実践してみたい人。
社会科学教育や情報教育に興味がある人で、新しい方法論を開拓してみたい人。
教えることが好きな人、教材開発をしてみたい人。
ソフトウェア開発をしている人で、自分の技術を具体的な応用に役立てたい人。
オープンソースのソフトウェア開発に関わってみたい人。
英語を得意とする人で、その語学力を活かして英語版教材をつくってみたい人。
研究プロジェクトB1「新しい社会システム論の探究」(井庭)で考えた複雑系や進化のモデルのシミュレーションを作成したい人。
履修条件
- 必要な事前知識や技術はありませんが、新しいことに挑戦する好奇心の強い人を期待します。
- プログラミング経験は問いません。初心者も歓迎します。ただし、シミュレーション作成のために最低限必要なことを学んでもらうことになります。もちろん、必要に応じたサポートを行います。
- 文献を読んだり、シミュレーションを作成・修正したりと、比較的に作業量の多い研究プロジェクトであることを理解した上で履修してください。
連絡先(履修希望・質問等)
履修を希望する人は、1月21日(水) ※ までに以下の情報を書いて、メールで申し込んでください。宛先は iba@sfc.keio.ac.jp で、サブジェクト(件名)を「研究プロジェクトB(2) 履修希望」としてください。
- 氏名,ログイン名,学籍番号
- 自己紹介
- 興味のある分野・やってみたい研究
- プログラミング経験の有無・程度
- 連絡先(春休み中に読んでいるメールアドレス)
また、研究プロジェクトについての質問は、「研究プロジェクトB(2)についての質問」と明記の上、iba@sfc.keio.ac.jp へメールでお願いします。
※現在のところ定員に達していませんので、締切後の現在でも、エントリーを受け付けています (定員になった場合には、すでに確定した人が優先されます。それ以降は定員までの先着順とします)。
受け入れ予定人数
15〜30名
受入人数を超えた場合の選考方法
面接もしくはメールによる選抜 (詳細は追って連絡します)。
これまでの関連成果(参考)
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本研究プロジェクトは2004年が初年度ですが、担当教員が主催していたSFC有志研究グループでは、これまでに以下のようなシミュレーションを作成してきました。
- 規格競争(修士論文)
- 電力市場(修士論文)
- 選挙投票(修士論文)
- 株式市場(卒業論文)
- 貨幣の自成と自壊
- 囚人のジレンマの戦略模倣
- 空港の待ち行列
- 成長するネットワーク
参考文献
事前に読んでおいてほしい本
『社会シミュレーションの技法:政治・経済・社会をめぐる思考技術のフロンティア』(ナイジェル・ギルバート, クラウス・G・トロイチュ, 日本評論社, 2003)
※ この中の第1章、第2章、第7章、第8章、第9章。
社会シミュレーション研究
『対立と協調の科学:エージェント・ベース・モデルによる複雑系の解明』(ロバート・アクセルロッド, ダイヤモンド社, 2003)
『貨幣の複雑性:生成と崩壊の理論』(安富歩, 創文社, 2000)
『人工市場:市場分析の複雑系アプローチ』(和泉潔, 森北出版, 2003)
『人工社会:複雑系とマルチエージェント・シミュレーション』(Joshua M. Epstein, Robert Axtell, 構造計画研究所, 共立出版, 1999)
オブジェクト指向と統一モデリング言語
『UMLリファレンスマニュアル』(ジェームズ・ランボー, イヴァー・ヤコブソン, グラディ・ブーチ, ピアソン・エデュケーション, 2002)
『UMLによるビジネスモデリング』(ハンス=エリク・エリクソン, マグヌス・ペンカー, ソフトバンクパブリッシング, 2002)
『企業情報システムの一般モデル: UMLによるビジネス分析と情報システムの設計』(クリス・マーシャル, ピアソンエデュケーション, 2001)
思考・学習の道具としてのコンピュータ
『人を賢くする道具:ソフト・テクノロジーの心理学』(D.A. ノーマン, 新曜社, 1996)
『マインドストーム:子供, コンピューター, そして強力なアイデア』(シーモア・パパート, 未來社, 1995)
『コンピュータと教育』(佐伯胖, 岩波新書, 1986)
『新・コンピュータと教育』(佐伯胖, 岩波新書, 1997)
研究の進め方や論文の書き方
『創造的論文の書き方』(伊丹敬之, 有斐閣, 2001)
『ひと月百冊読み、三百枚書く私の方法』(福田和也, PHP研究所, 2001)
『「超」文章法』(野口悠紀雄, 中公新書, 2002)
履修を考えている人へのひとこと
- 本研究プロジェクトは、2004年度が1年目です。一緒に試行錯誤しながら、面白い研究・活動ができればと思います。
- 研究プロジェクトはいわゆる授業(講義)ではないので、「アウトプット志向」を意識してほしいと思います。自ら主体的に考え、他の人と議論し刺激し合いながら先へ先へと進んでいける人を期待します。
- 本研究プロジェクトでは、いろいろな分野の考え方を積極的に取り入れていきます。例えば、その中のひとつであるソフトウェア工学の分野は、1968年にその必要性が唱えられて以来、「大規模で複雑なモ デルをどのように作成・操作するのか」ということを考え実践してきた分野です。そのため、そこで生まれた考え方には、社会科学が学ぶべき多くの有効な概念と方法があ ると思います。このように、個別分野を超えた新しい方法論をつくっていきましょう!
その他・留意事項
本研究プロジェクトの担当者は有期教員であり、残り年数は3年〜5年です。