慶應義塾大学 総合政策学部 / 政策・メディア研究科

2003年度秋学期 水曜日3限
担当: 井庭 崇 (iba@sfc.keio.ac.jp)

大学院棟κ23(カッパ23)にて

科目コード 45350
単位 2単位
カテゴリ

27.クラスター-総合政策系科目(学部)
2. 研究領域科目−総合政策系科目(大学院)

前提科目 なし
履修条件 なし

授業の主題と目標

 私たちはふだん、自分なりの社会イメージをもって生活しています。例えば、身の回りがどのような仕組みになっていて、どのように変化していくのか、そしてそれは自分とどのように関係しているのか――――このとき頭の中にあるものが社会モデルです。また、社会科学や実務においても、対象となる社会をモデル化することがあります。このときに用いられるのは数式や言葉、図式などですが、これらはどれも社会の一部を写しとって表現した社会モデルです。

  本講義では、社会のモデル化についての基本的な考え方と、「モデルをコンピュータ上で動かす」という社会シミュレーションについて学びます。取り上げるのは、最新の「エージェントベースアプローチ」という手法です。このアプローチは、株式市場や商品市場の分析手法として現在活発に研究されており、一部のコンサルティングファームなどでも利用され始めているものです。これらの社会シミュレーションを、実際にどのように作成し分析するのかということを、具体的にみていきたいと思います。

 授業を通じて共有したいものは技術論ではなく、物事を捉え・考え・表現するというプロセスそのものです。そのため、社会科学の歴史や複雑系科学、オブジェクト指向、思考のレトリック、創造性、コラボレーションなど、ヒントとなる話題も随時取り上げていく予定です。

 今年度は、コンピュータ・シミュレーションについて昨年度よりも多く取り上げ、演習やミニ研究プロジェクトも行いたいと思います。ただし、必要なことは授業内で説明するので、プログラミングの知識や技術は前提としません。


教科書

 


参考文献

必要に応じてプリントで配布するが、授業全体に関連する本でお奨めのものは以下のものである。


提出課題・試験・成績評価の方法など

以下の提出物から総合的に評価する。

●各授業後のフィードバックコメント(各回提出, 分量は任意) 本講義では、単に情報をためこむのではなく、自分の興味や体験と結びつけて考えることが本質的に重要だと考えます。そこで各回授業終了後、授業中に出てきた考え方や議論を自分なりに再考して、フィードバックコメントを提出してもらいます。提出方法は、指定された形式に従って電子メールで提出し、数日後の〆切の後、お互いのコメントがWWW上に公開されます。

●最終発表および最終レポート 授業内容を経験的に理解するために、授業の後半では、1人または数人によるミニ研究プロジェクトを行います。考察対象は、自分たちの興味に合わせて設定することができます。この最終課題で問われるのは、プログラミングの技術力ではありません。その代わりに、自分たちで自らの成果の評価軸を設定してもらい、それに基づいて評価されます。例えば、研究設定の面白さ、モデル化の妥当性、シミュレーション設計の巧みさ、インプリケーションの説得性 等、自分たちの研究内容のどこに魅力があるのかをアピールしてください。 このほか、授業の進行によって、理解の補助となるような宿題を出すことがあります。

なお、中間・期末試験は行いません。


履修上の注意・その他

各自、ノート型パソコン(ラップトップ・コンピュータ)を用意すること。この授業では、授業中にシミュレーションの実行や、モデル作成の練習を行います。


授業計画スケジュール

■第1回 (10/1 水) 授業イントロダクション

この授業の全体像と目標、進め方などを提示する。

教科書:『社会シミュレーションの技法』第1章

 

■第2回 (10/8 水) 社会科学とシステム論

社会科学におけるシステム観の変遷について知り、「複雑系」のシステム観が登場した背景とその意義について理解する。モデルやメタファーの役割についても触れる。

教科書:『複雑系入門』第1章

 

■第3回 (10/15 水) カオスとシミュレーション

現在の科学研究において、シミュレーションが理論を発展させるための非常に重要な方法となっていることを理解するために、カオスについて取り上げる。カオスは、モデルによる予測可能性の問題について考える上でも、重要な概念である。

教科書:『複雑系入門』第6章
参考文献:『シミュレーションの思想』, 「計算の、計算による、計算のための科学」

 

■第4回 (10/22 水) 相互作用するシステムにおける隠れた法則性

多数の要素が相互作用するシステムは、絶えず臨界状態に近い状態を保つということが知られている。ここでは、砂山における雪崩の規模と頻度、地震の規模と頻度、価格変動の規模と頻度の関係、都市人口とその順位、単語の出現頻度とその順位、企業所得とその累積分布、成長するネットワークの構造などにおける隠れた法則性について理解する。

【演習】シミュレータを用いたシミュレーション実験演習

教科書:『複雑系入門』第6章
参考文献:『新ネットワーク思考』

 

■第5回 (10/29 水) シミュレーションによる分析

シミュレーション分析のわかりやすい例として、古典的な待ち行列のシミュレーションを取り上げる。空港の待ち行列や、行政の業務プロセスの待ち行列のモデルを用いて、ボトルネックの発見とその改善策の効果分析について体験する。

【演習】シミュレータを用いたシミュレーション実験演習

教科書:『社会シミュレーションの技法』第2章, 第5章

 

■第6回 (11/5 水) エージェントベースアプローチ

複数の主体が相互作用することで社会・経済現象が生じると捉える「エージェントベースアプローチ」について理解する。ここでは、具体的なシミュレーション例を多数取り上げる。

【演習】シミュレータを用いたシミュレーション実験演習

【ミニ】ミニ研究プロジェクトのテーマ調査

教科書:『社会シミュレーションの技法』第7章, 第8章, 『複雑系入門』第12章
参考文献:『貨幣の複雑性』, 『対立と協調の科学』 ほか

 

■第7回 (11/12 水) シミュレーションモデルの作成@

シミュレーションモデル(プログラム)の作成について、その基本を理解する。

【演習】支援ツールを用いたシミュレーションモデル作成演習@

 

■第8回 (12/3 水) シミュレーションモデルの作成A

前回に引き続き、シミュレーションモデル(プログラム)の作成について理解する。

【演習】支援ツールを用いたシミュレーションモデル作成演習A

 

■第9回 (12/10 水) 対象分析と概念モデルの作成@

対象を分析して概念モデルを作成する方法について理解する。また、オブジェクト指向の考え方も紹介する。

【演習】支援ツールを用いた概念モデル作成演習

 

■第10回 (12/17 水) 対象分析と概念モデルの作成A

前回に引き続き、対象を分析して概念モデルを作成する方法について理解する。

【ミニ】ミニ研究プロジェクトのための対象分析と概念モデルの作成

 

■第11回 (1/7 水) 進化のモデル

社会・経済のダイナミズムを理解するために重要だといわれる「進化」の考え方を理解する。また、遺伝的アルゴリズムによる進化のシミュレーションを体験する。

教科書:『複雑系入門』第9章, 『社会シミュレーションの技法』第9章
参考文献:『進化と経済学』, 『進化経済学のすすめ』

【演習】シミュレータを用いたシミュレーション実験演習

 

■第12回 (1/14 水) ミニ研究プロジェクト

各ミニ研究プロジェクトについて、質問を受けてサポートを行う。

 

■第13回 (1/21 水) ミニ研究プロジェクトの発表会

 

 


授業ホームページ

http://web.sfc.keio.ac.jp/~iba/lecture/


(C) 2003, Takashi Iba