慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス
授業概要(シラバス)
2004年度秋学期
2004年度秋学期 金曜日3時限
科目コード: 11080 / 2単位
カテゴリ: 3.汎用-導入-ナレッジスキル科目(学部)
開講場所:SFC
授業形態:講義・演習/実習
1. 主題と目標/授業の手法など
私たちはふだん物事を理解するときに、頭の中に自分なりのモデルをつくり、それをもとに理解しています。日常生活だけでなく、科学や創作の分野でも、同様にモデルが重要な役割を果たしています。モデルをつくるには、対象から本質的に重要だと思う部分を抜き出して記述するのですが、この作業のことを「モデリング」(モデル化)といいます。モデリングを通じて、その対象についての理解を深めることができ、また他の人とのコミュニケーションにも役立ちます。
そして、モデルの理解を深めるための方法として「シミュレーション」という方法があります。シミュレーションとは、モデルの設定を変えることで、その振舞いがどのように変化するかを観察することです。シミュレーションを行うことにより、複雑なモデルや大規模なモデルの理解が容易になり、また、その世界を体験的に理解することができるようになります。
本講義では、モデリングとシミュレーションについて、その基本的な考え方と最近の話題を紹介します。また、各自のノート型パソコンで実際にシミュレーションを体験することで、その面白さと可能性を味わってほしいと思います。
2. 教材・参考文献
【教科書】
●井庭崇, 福原義久, 『複雑系入門: 知のフロンティアへの冒険』, NTT出版, 1998 (ISBN: 4871885607)
※このほか、必要な資料は適宜、指定または配布します。
【参考文献】
●ナイジェル・ギルバート, クラウス・G・トロイチュ, 『社会シミュレーションの技法: 政治・経済・社会をめぐる思考技術のフロンティア』, 日本評論社, 2003 (ISBN: 453555241X)
●アルバート=ラズロ・バラバシ, 『新ネットワーク思考: 世界のしくみを読み解く』, NHK出版, 2002 (ISBN: 4140807431)
●伊藤 正美, 『自律分散宣言:明日を拓くシステムパラダイム』, オーム社, 1995 (ISBN: 4274078213)
●丹羽 敏雄, 『数学は世界を解明できるか:カオスと予定調和』, 中公新書(1475), 中央公論新社, 1999 (ISBN: 4121014758)
●竹政 昭利, 左川 聡, 『ビジネスマンのためのUML入門:ビジネスモデリングによるアプローチ』, 毎日コミュニケーションズ, 2004 (ISBN: 483991267X)
3. 授業計画
第1回 イントロダクション
授業の全体像と目標を提示します。また、私たちが物事を「わかる」というのは、どのようなことかについて考えます。まず、形式知における「わかる」とは、「分ける」ことであり、モデリングと関係が深いといえます。また、暗黙知における「わかる」とは、「体験して納得する」ことであり、シミュレーションと関係が深いといえます。第2回 モデリングとは
モデリング(モデル化)とは、対象を、ある分け方に従ってモデルに写し取ることです。このとき得られたモデルを操作・分析することで、もとの対象に対する理解を深めることができます。また、他の人と一緒にモデルを作成したり共有したりすることで、コミュニケーションや理解の促進が期待されます。第3回 数理モデリング
時間とともに変動する現象について理解したいとき、数理モデルを作成することがあります。この数理モデルを操作・計算することで、現象に対する理解を深めたり予測したりします。モデルの特徴を把握する(可視化する)ための方法についても紹介します。第4回 非線形とカオス
数理モデリングにおける興味深い例として、「カオス」について取り上げます。カオスとは、「規則に従っているにもかかわらず、不規則な振舞いをする」現象のことです。シミュレーションは、解析的に解くことができない/難しい問題に対するアプローチの方法としても有効であることを理解します。
第5回 オートマトン(状態機械)
状態の観点からシステムを把握する「オートマトン」(状態機械)の考え方を紹介します。このように、システムを把握する際には、そのシステムの状態の変化を理解することが重要になります。第6回 オブジェクト指向モデリング
現実世界の構造や動きをモデル化するためのひとつの方法として、オブジェクト指向の考え方を取り上げます。オブジェクト指向とは、対象となる世界における物理的・観念的なモノを、「属性」と「振る舞い」の観点から「オブジェクト」に写し取り、それを単位に世界モデルを作成していくという手法です。第7回 オブジェクト指向プログラミング
オブジェクト指向によってモデル化したモデルを、プログラミングで実現することの面白さを紹介します。ここでは、プログラミングを「動く世界をつくるための方法」という視点でみていくことにします。第8回 シミュレーションとは
シミュレーションとは、用意したモデルと初期条件からそのモデルを時間的に展開させることであり、それを通じてモデルの特徴についての経験的な知見を得ることができます。現在の科学的研究において、シミュレーションが、理論を発展させるための非常に重要な方法となっていることを理解します。第9回 シミュレーションによる分析
古典的なシミュレーションモデルである待ち行列モデルについて紹介します。また、実際に、空港の待ち行列シミュレーションを実行し、シミュレーションによる分析を体験します。第10回 自律分散協調システムと自己組織化のシミュレーション
多くの要素が並行して動く「自律分散協調システム」について取り上げます。とくに、そのシステム自らが、自らの秩序を形成する「自己組織化」について、実例を交えて紹介します。第11回 遺伝的アルゴリズムによる進化のシミュレーション
進化の仕組みを簡単にモデル化した「遺伝的アルゴリズム」を紹介します。適応と進化のメカニズムについて理解します。第12回 ニューラルネットワークによる学習のシミュレーション
脳の仕組みを簡単にモデル化した「人工ニューラルネットワーク」を紹介します。学習のメカニズムについて理解します。
第13回 成長するネットワークのシミュレーション
最近話題になっている「成長するネットワーク」を紹介します。このモデルは、現実世界に存在するネットワーク(例えば社会ネットワークやインターネットなど)のほとんどが「成長する」という特徴をもっていることに着目し、モデル化したものです。
4. 提出課題・試験・成績評価の方法など
授業では毎回、宿題を出します。これは、授業内容の理解を深めたり、次週の準備をしてきてもらうためのものです。また、授業中にミニ課題を行うこともあります。成績評価は、これら宿題と課題の提出回数とその質で評価します。学期末のレポートや試験は行わないので、毎回休まずに出席して、きちんと取り組んでください。
5. 履修上の注意・その他
授業中に、各自のノート型パソコンを用いて、実際にシミュレーションを実行する機会を設けます。
なお、この授業は、KEIO UNIVERSITY SFC GLOBAL CAMPUS (SFC-GC)でアーカイブおよびネット配信されます。SFC-GCは、講義をオンライン上でグローバルに共有し、学内外の学習者に役立てるための仕組みです。復習の際にも、この映像記録を活用してください。
6. 前提となる知識(科目名等)
特になし
7. 履修者数制限(予定人数および制限方法)
履修人数を制限する。
受入学生数(予定):約 100 人
選抜方法と時期:
人数が超過した場合には、初回の授業時に、履修希望の理由について書いてもらいます。
8. 授業URL
http://web.sfc.keio.ac.jp/~iba/lecture/2004/sfc-model/
9. 学生が準備するソフト・機材
ノート型パソコン
10. 授業に関する連絡先
iba@sfc.keio.ac.jp
2004-09-05 00:21:46