『水うちわをめぐる旅』(水野馨生里)

2007.07.11 Wednesday 16:09
井庭 崇


『水うちわをめぐる旅:長良川でつながる地域デザイン』(水野馨生里, 新評社, 2007)image[]を紹介したい。

image[『水うちわをめぐる旅』]この本を手にすると、まず素敵な装丁に魅せられてしまう。とてもみずみずしく、さわやかなのだ。

そっと表紙をめくってみる。透明感のある写真と、それに添えられた言葉たち。その世界観に浸りながら進んでいくと、「水うちわをめぐる旅」が始まる。

この本の著者、水野馨生里さんはSFC 総合政策学部の卒業生だ(いま卒業3年目)。出身は、この旅の舞台となっている岐阜。テーマになっている「水うちわ」とは、「水のように透けて見える「面」(おもて)をもつうちわで、目にも涼しく、さらに水につけて扇ぐことにより、気化熱の効果によって吹く風をいっそう冷涼に感じることができるうちわ」(p.ii)である。120年ほど前に誕生した、岐阜の伝統工芸品のひとつだ。ここ十年ほど途絶えてしまっていたが、著者も参加している「復活プロジェクト」によって、現在は復活を遂げている。

 「面(おもて)の紙はトンボの羽のように半透明で張りがあり、光にかざすと透明さをさらに増して輝く―――私たちが思い浮かべる“うちわ”という道具の概念を打ち破る美しさをそれは備えていた」(p.9)と、その美しさに魅せられた水野さんは、なぜ岐阜で水うちわが生まれてきたのか、そしてなぜそれは途絶えてしまったのか、という歴史を紐解いていく。その過程で、水うちわは「ものの成り立ちを、そして手仕事の重要性を教えてくれた」のだという。「教科書からでもなく、学校の先生でも親でもなく、水うちわが教えてくれたことはかけがえのないことばかりであった」(p.96)。これは著者の素直な気持ちであろう。そういった気持ちが、本全体から伝わってくる。

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