『水うちわをめぐる旅』(水野馨生里)

2007.07.11 Wednesday 16:09
井庭 崇



 この本に好感がもてるのは、著者の視点と語り口がフレッシュだからかもしれない。地域の歴史を取り上げるときも、目線が読者と同じなのだ。著者が知っていることを書き、読者がそれを読むというのではなく、著者が歩いた「水うちわをめぐる旅」に、僕たちも案内されているような感覚なのだ。そして、小説のような叙述的な書き方も、モノや地域に対するあったかい眼差しを感じさせるのだろう。

 この本を僕が気にいっている点がもうひとつある。基本的には水うちわと岐阜の話をしているのだが、時折一歩引いて、現代について触れられている部分があるという点だ。例えば・・・

「とても身近なものだけど、あまりにも近くにさりげなくあるものだから、それ以上一歩奥へと踏み込むことはこれまでなかった。いや、うちわだけではなくて身の周りにはあまりにもたくさんの商品が溢れていて、その裏にある物語を何も知らずに通りすぎていくことが多い。あらゆる情報が次々と流れ込んでくる現在において、一つ一つの商品に込められた思いを取り出すことなんてそうそうない。・・・・・うちわの歴史や成り立ちを追究して好奇心を満たしていくと同時に、これまでとっても身近にあったうちわのことさえ知らなかった私自身は、生活のなかで出会うあらゆるものやそこに潜んだ物語を取りこぼしてきてしまったのではないかという危惧さえ抱くようになっていた。」(p.12, 13)

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