『水うちわをめぐる旅』(水野馨生里)
2007.07.11 Wednesday 16:09
井庭 崇
「ところで、「繁栄」、「発展」とはいったい何だろうか。アスファルトで囲われ、高層ビルが立ち並び、あらゆる商品がすぐに手に入り、時間を消費する娯楽を提供してくれる場が人々の「繁栄」と「発展」を示しているのだろうか。現代の科学技術の功績を捨てて過去への回帰を促すわけではない。ただ、脈々と続いてきた私たちの生活の背景にあったものをもう一度認識するときが迫っているのではないだろうか。自分の知らなかった故郷の歴史を辿っていくにつれ、そんな思いを抱くようになっていった。」(p.36)
「モノゴトが成立するためにあらゆる条件が満たされているという状況は、実はとても稀なことなのかもしれない。・・・・・一つのモノを継続的に生産・製造する条件、それは素材となる原材料が持続的に供給され、そのモノをつくるにあたって、それにかかわる人々がそれぞれの役割を果たし、さらにそのモノがあり続けるための社会環境があること、である。逆に、その一つのものがなくなる条件は、それをつくる条件のなかのたった一つが消えることである。現にこうしてなくなってきたものは数知れないほどある。」(p.72, 76)
というようにである。水うちわにまつわる活動を通じて得た実感が、現代社会についての考えに昇華している点がすばらしい。こういった記述があることで、単に水うちわと岐阜の話としてではなく、僕らは自分たちのこととして、イメージをふくらませながら読むことができるのだと思う。
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