量子力学と社会思想:大澤真幸氏の新著『量子の社会哲学』

2010.10.15 Friday 22:37
井庭 崇



量子力学がもたらす、世界の新しい捉え方

 現代物理学のひとつの最先端である「量子力学」(quantum mechanics) では、今までの科学の常識を覆してしまう全く新しい世界の捉え方が提示されています。従来の古典力学(ニュートン力学)では、初期状態が明らかになればその後の振る舞いを決定できるという「決定論」の世界観で物事が捉えられていましたが、量子力学では、全てが確率的に存在し、観測することによっても変化が生じてしまうという根源的な不確定性をもつものとして捉えます。その結果、確固たる不変的なモノを出発点として世界を捉えるのではなく、その内にゆらぎを抱え、モノとコトが入り交じっているような存在から世界を捉え直すという視点の転換をもたらしています。
 このような量子力学の世界観は、物理学のみならず、社会科学などの分野においても新しい視点を提供すると考えられます。現在の社会科学の基盤のひとつには、古典力学的な世界観があるのですが、その手本となった物理学においては、すでに量子力学の登場によってパラダイムシフトが起きています。従来の決定論では理解することが難しい「自由」や「創造性」を含む「社会」を対
象とする学問は、このパラダイムから学ぶべきことが多いのではないでしょうか。もっと言うならば、21 世紀の社会科学は量子的な世界観にもとづかなければ展開し得ないと言ってもよいかもしれません。このような考えのもと、井庭研究会では、量子力学における考え方を、物理学の概念というよりは、一種の「世界観」と捉え、社会理解に活かすための取り組みを始めています。

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