パターン・ランゲージは、現状を肯定しながら少しずつ成長することを支援する

2012.12.06 Thursday 23:44
井庭 崇


 パターン・ランゲージはマニュアルやハウツー本とどう違うのか、という質問をよく受けた。最近はあまり聞かれなくなってきたけれども、4、5年前はむしろこの質問しか来なかった。この質問には実はなかなかうまく答えられなかったのだけれども、最近、ようやく納得できる説明ができるようになってきた。

 僕らがパターン・ランゲージで目指しているのは、「これをこの手順でやるべし」というひとつの大きな枠にはめ込むことではなく、「いまの自分のやり方をベースとしながら少しずつ拡張・成長していくことの手助け」をすることだ。たくさんのパターンを含むパターン・ランゲージを前にしたときに、すべてのパターンを実践しなければならないという強迫観念を持たないようにしてほしいと思っている。

 パターンは、こうしなければならないというルールではなく、いまの自分らしいやり方を少しずつ拡張していくためのヒントだからだ。「大きな枠にはめ込んで自分を変える」のではなく、「自分を広げるために小さなヒントを取り入れていく」 ―― このニュアンスの違いを理解することが、パターン・ランゲージの意義を理解するためにには重要なのだ。だからこそ、抽象的な記述をするときによくあるような「少数の原則」や「大きなモデル」で提示するのではなく、「小さな単位の集合(ゆるやかにつながった体系)」でパターン・ランゲージはまとめられているのだ。現状を肯定しながら少しずつ成長・拡張することを支援するのにはこの方法しかない。

 これとも関係するが、その小さな単位にすべて「名前」がついていて、それらが共通言語になることが目指されているということが、パターン・ランゲージの大きな特徴である。つまり、各パターンは単にコツを記述・共有するためではなく、名前をつけて「ことば」として扱えるようにすることに本質がある。個々のパターン・ランゲージで目指している「いきいきとした全体」は、本来不可分なもの。それを要素分解して理解すると全体性は失われてしまう。なので、分解するのではなく、そのまま生け捕り、いろんな側面から読み解くための「ことば」をつくる。これがパターン・ランゲージをつくるということ。

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