パースのアブダクションとパターン・ランゲージ

2014.05.04 Sunday 15:53
井庭 崇



パース自身が取り上げている例を紹介しよう。「わたくしがある部屋に入ってみると、そこにいろいろな違う種類の豆の入った多数の袋があったとする。テーブルの上には手一杯の白い豆がある。そこでちょっと注意してみると、それらの多数の袋のなかに白い豆だけが入った袋が一つあるのに気づく。わたくしはただちに、ありそうなこととして、あるいはおおよその見当として、この手一杯の白い豆はその袋からとり出されたものであろうと推論する。この種の推論は【仮説をつくること】(making a hypothesis)と呼ばれる」(パース)

つまり、この例では、以下のような推論をして、観察結果を説明するための仮説を形成している。

(1)この袋の豆はすべて白い(規則)、
(2)これらの豆は白い(結果)、
(3)ゆえに、これらの豆はこの袋の豆である(事例)

"Rule. - All the beans from this bag are white.
Result. - These beans are white.
∴Case. - These beans are from this bag." (Peirce, 1878)

"This sort of inference is called 【making an hypothesis】. It is the inference of a 【case】 from a 【rule】 and 【result】." (Peirce, 1878)

このように、アブダクションは観察された結果や既知の規則から仮説を生み出すため、拡張的(発見的)な機能をもつ推論だということができる。だからこそパースは「アブダクションは説明仮説を形成する方法(process)であり、これこそ、新しい諸観念を導入する唯一の論理的操作である」という。

このように、アブダクションは拡張的(発見的)な機能をもつが、可謬性(かびゅうせい)の高い推論でもある。つまり、形成した仮説が間違っている可能性があり得るということである。先ほどの例でいえば、手にとった豆が、目の前の袋からではなく他の場所から持ち込まれたものであったかもしれない。

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