パースのアブダクションとパターン・ランゲージ

2014.05.04 Sunday 15:53
井庭 崇



米盛は、この「万有引力の法則の発見は、われわれが直接観察した事実(諸物体は支えられていないときは落下するという事実)から、それらの事実とは違う種類の、しかも直接には観察不可能な「引力」という作用を想定する仮説的な思惟による発見」であると指摘する。

つまり、「こうした理論的対象の発見は観察データから直接的な帰納的一般化によって導かれるものではなく、それは諸物体の落下の現象を説明するために考え出された『仮説』による発見」なのである。

なので、「諸物体の落下の現象をどれだけ周到に観察し一般化してみても、創造的想像力、仮説的思惟の働かないところでは、直接には観察不可能な「引力」という理論的仮説的対象というものを考えつくことはできない」のであり、ここにアブダクションの推論が不可欠なのである。

アインシュタインのいう「経験をいくら集めても理論は生まれない」というのは、まさにこのことを指しているといえる。

このことは、ケプラーの法則の発見にも当てはまる。ケプラーは、ティコ・ブラーエが長年にわたって集めた惑星の運動についての膨大な観察データをもとにして、何度も仮説を立て直しながら試作を重ね、楕円運動の仮説に行きついている。

N・R・ハンソンも、ケプラーについて「彼は何度もその事実に戻らねばならなかった。事実群から仮説を立ててみる。また事実に戻ってそこから別の仮説を立ててみる。この繰り返しであった。そして最後に、楕円運動の仮説に至った」といい、その過程を理解するにはパースの考え方が重要だと述べている。

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