パースのアブダクションとパターン・ランゲージ

2014.05.04 Sunday 15:53
井庭 崇



つまり、結果から原因への遡及推論であり、パースのいうリトロダクション(retroduction)=アブダクション(abduction)である。ケプラーはまさにそのような遡及的な推論を行ったのである。

「ケプラーは惑星の運動に関する観察結果から、その観察結果をもたらした惑星の運動へと遡及推論を行ったのです。つまり、ティコ・ブラーエの観察結果が正しいとしたうえで、それらの観察結果を説明しうるように考えようとすると、惑星はどのように運動していなくてはならないか、観察結果に合うような惑星の運動とはどういうものでなくてはならないか、というふうに遡及推論を行った」(米盛)のである。

このことは、ヘンペルの次の指摘とも合う。「データから理論にいたるには創造的想像力が必要である。科学的仮説や理論は、観察された事実から【導かれる】のではなく、観察された事実を説明するために【発明される】ものである」。

パースも次のように述べている。「人は諸現象を愚かにじろじろみつめることもできる。しかし想像力の働かないところでは、それらの現象は決して合理的な仕方でたがいに関連づけられることはない」と。仮説を形成するための論理的操作を含む推論、すなわちアブダクションが不可欠なのである。

このように、科学的な発見において、「アブダクションは正しい仮説の形成を目指して意図的に用いられる方法であり、したがって十分に意識的に熟慮して用いられるなら、それは論理的に統制された思惟の方法であり、科学的発見のためのすぐれた推論の方法となりうる」(米盛)のである。

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