書籍『私の脳で起こったこと:レビー小体型認知症からの復活』について

2015.09.17 Thursday 22:12
井庭 崇


image[Higuchisan220.jpg]今年出版された樋口 直美さんの『私の脳で起こったこと:レビー小体型認知症からの復活』を、改めてじっくり読み直した。

この本は、レビー小体型認知症とともに生きる樋口さんご自身の日々を綴った日記で構成されている。ご本人も日記を公開するということは最初ためらったのではないかと思われるが、日記だからこそ伝わってくるものが確かにある。誰にかに向けて書かれたものではなく、身の回りで起きた出来事の記録、自分から見た世界の様子、そして自分自身を勇気づけようとする言葉たち。そういう言葉がめくるページすべてに記されている。これを読むと、樋口さんのすぐ横で話を聞いているような、そして、自分のこととして生じてくるような、そういう気持ちになる。

本書を読んでいると、まず樋口さんに母や叔母のイメージが重なってくる。これは、樋口さんが僕よりも少し上の年齢の女性であるからなのだと思う(実際には僕の母はもっと上の代なのだけれども)。そして、妻、最後に自分自身に重なる。当惑しているとき、悩んでいるとき、元気になるとき、そういうひとつひとつのシーンにそういう身近な人が入れ替わり立ち替わり思い浮かぶ(本書には写真が一枚もないということが、こういうイメージを喚起することにつながっているのではないかと思う)。

この本は、とても貴重で重要な本だ。これはまず、レビー小体型認知症がどのような症状と気持ちをもたらすのかが、本人からみた視点で書かれている。だが、それだけにとどまらない。これは、樋口さんの探究の軌跡でもある。ほとんど知られていないレビー小体型認知症について自ら調べ、話し、学んできたそのプロセスが記されている。そして、強さと弱さ、迷いと決意というような心の矛盾・葛藤が、そのまま表現されているのも素晴らしいと思う。つまるところ、それは人間らしいということだ。一人の人の存在感を強く感じるのだ。

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