2021年春学期 井庭研「ナチュラルにクリエイティブに生きる未来に向けて」シラバス

2021.01.27 Wednesday 17:07
井庭 崇



しかも、それは単に「創造的」であればよいだけではありません。現代社会が抱える諸問題を解決していくためには、「ナチュラル(自然)」という側面が欠かせないと思うのです。ここ一世紀の間に、日本をはじめ世界中の多くの人々が、自然から離れた暮らしをするようになりました。改めて、自然との関わり方自分たちの暮らし方について再考しなければならない時期に来ていると思います。

解剖学者の養老孟司は『都市主義の限界』という本のなかで、「戦後社会の変革を、私は都市化と定義してきた」と述べています。都市化においては「なにごとも人間の意識、考えること」が重要だとされ、「排除されるのは、意識が作らなかったもの、すなわち自然」であると言います。そして、「排除された自然は、やがて都会人のなかでは現実ではなくなる」のだと指摘しました。そして、「人間を構成するもう一つの重大な要素」である「無意識」も、意識化できないがゆえに排除されてしまうと指摘しました。まさに現代社会で起きていることだと思います。

さらに、「都市とはすべてが人間の所行で生じたものであるから、そこで起こる不祥事はすべて『他人の所為』なのである」ため、すべてのことが行為・思考に帰せられる「人工的」な世界になるわけです。養老孟司との対談のなかで宮崎駿が「視線の矛先が、いまの時代、人間にばかり向いているというのは、ドキリとさせられます」(『虫眼とアニ眼』)と語っているのですが、同感です。このように、人工的な環境のなかで、意識化された物事と人間同士の関係のなかで生きているために、現在のようなとても息苦しく、閉塞感を感じるようになってしまっているのではないでしょうか。

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