「べき乗分布」のインプリケーション (『歴史の方程式』, マーク・ブキャナン)

2008.04.22 Tuesday 22:05
井庭 崇



さらに、サンプリングの考え方も、正規分布を前提とする場合とは話が違ってくる。正規分布であれば、サンプリング数を増やすことで、より精度の高い近似ができるが、べき乗分布の場合は、サンプリング数を増やすほど、テール部分を拾ってしまい、値は小さくなってしまう。ここでも、対象となる現象が正規分布なのかべき乗分布なのかは、重要な違いだといえる。


■べき乗分布にはスケール不変性がある → 大きな出来事に特別な理由はない。

べき乗分布のスケール不変性は、大きな出来事が何か特別な理由によるものではない、ということも意味している。それは、大きな出来事も小さな出来事も、同じメカニズムで生成されるからだ。

「ジャガイモの破片の山におけるスケール不変性は、大きい破片は小さい破片を拡大したものにすぎないということを示している。すべての大きさの破片は、あらゆる大きさで同じように働く崩壊過程の結果として生じる。グーテンベルク=リヒターの法則は、地震や、地震を発生させる地殻で起こる過程についても、同様のことが言えるということを示している。地震のエネルギーは冪乗則に従うので、その分布はスケール不変的になる。大きな地震が小さな地震とは違う原因で起こると示唆するものは、まったく何もないのである。大きな地震が特別なものである理由がないという事実は、小さな地震を引き起こすものと大きな地震を引き起こすものはまったく同じであるという、逆説的な結果を示唆している。この考え方にもとづけば、大地震に対する特別な説明を探しても意味がないことになる。」(p.63)


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