「顕在的機能」と「潜在的機能」 (機能分析とは何か? 前編)
2008.04.24 Thursday 15:18
井庭 崇
マートンは、機能分析について、雨乞いの儀式を例に説明する。ある部族が「雨乞い」の儀式を慣習的に行っているとしよう。この雨乞いの機能として考えられるのは、この儀式によって天候に影響を及ぼすという機能だろう。これを「顕在的機能」(manifest function)という。しかし、この機能の効果は、現代の私たちの知識をもってすると、期待できるものではないことがわかる。雨乞いをしたからといって、実際に天候が変わるわけではないのだ。それでは、この「雨乞い」の儀式は、非合理で無意味なものなのだろうか?
image[RainMaking200.jpg]ここでマートンは、機能分析は「顕在的機能」を明らかにすることが目的ではない、と指摘する。その背後に隠された機能に注目することが重要だというのだ。雨乞いの儀式の場合、よくよく観察してみると、実はこの儀式にも隠れた機能が存在していることがわかってくる。その隠れた機能とは、部族が一体となって儀式を行うことで、部族内の連帯意識を強めるという機能だ。このような隠れた機能のことを、「潜在的機能」(latent function)という。この儀式の機能を「雨を降らす」という顕在的機能のみで判断すると、「合理的ではない」と判断せざるを得ないが、潜在的機能も考慮に入れると、その部族にとってきわめて合理的な儀式であることがわかってくる。
今の話は、以前取り上げた「ストーン・スープ」の話と通じるものがある。石(ストーン)を煮ることは、表面的には意味がないが、それによって多くの村人が寄ってきて、協力しあうことになる。ストーン・スープの顕在的機能は「石のスープをつくる」ということだが、潜在的機能は「それによって多くの村人が協力しあうきっかけをつくる」ということである。潜在的機能は、あくまでも顕在的機能の背後で、潜在的に存在しなければならない。潜在的機能を表に出してみたところで、それだけでは機能しないのである。このことは、雨乞いの儀式と構図が似ているので、わかりやすいと思う。社会的な仕組みをデザインするときには、顕在的機能と潜在的機能の両方を考えることが重要となる。
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