量子力学における「コト」的世界観と、オートポイエーシス
2008.07.08 Tuesday 23:55
井庭 崇
この量子の生成・消滅ということに注目すると、「存在するモノがどのような作用をするのか」を論じてきたのが古典力学であり、「存在するモノがどのように生まれてくるのか」を論じるのが量子力学だと捉えることができる。固体として存在(being)するモノが出発点なのではなく、ゆらぎをもった動きの上に成り立つ生成的(becoming)なものとして世界を捉えるという視点。竹内さんは、これを「モノ」的視点から「コト」的視点の転換と呼ぶ。僕は、後に書くように、コト的な視点が、オートポイエーシスの視点と通ずるものがあるという点に注目している。
「現代物理学の思想性は、量子重力理論という最前線の研究においてもっとも鮮明なかたちであらわれます。そこでは、すべての「モノ」が消え去り、すべては「コト」になるのです。」(p.11)
「われわれは、通常、モノとモノの間の「関係」としてしかコトが存在できないと思い込んでいます。ですが、たとえば粒子という概念よりもエネルギーという概念のほうが基本的だとするならば、少なくとも物理学の構造を見るかぎり、必ずしもモノがなければコトがないとはいえないことがわかります。むしろ、話は逆で、もしかしたら、人類の知の歴史は、世界の基本構造が(実は)モノではなくコトであることに気がつく過程だったのかもしれません。」(p.225)
この点がもっとも鮮明になるのは、「ループ量子重力理論」という最先端の理論においてである(『世界が変わる現代物理学』の後半で取り上げられている)。この理論では、「時間と空間の概念がきれいさっぱり消え去って、世界の根源には『抽象的なネットワーク』あるいは『ループ』しか残らない」(p.187)。つまり、あらかじめ時空を仮定しないのであり、時間や空間は二次的に導き出されるものだというのである。もはや、想像力の限界を超えていると思うが、もう少し踏ん張って読み進めると、次のような言葉に行き当たる。
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