息の蛇

"息の蛇" は、能の名作「道成寺」からインスパイアされた作品で、女の想念が蛇に変容する原形的なイメージをモティーフにして、深層心理の追及が行われます。この作品は、1993年2月に銀座十字屋ホールで開催された「電楽II」で初演され、同年6月にスウェーデンEMS主催の「Electronivi Musik-Festivalen 1993」で海外初演されています。

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虹の霞

"虹の霞" は、神戸の大震災で亡くなられた方々をはじめ、世界中で貧困、暴力、戦争、差別などの犠牲になっている人々を悼むレクイエムとして作曲されました。笙のソロは死者を呼び出す巫女を象徴し、死者の魂の苦しみはコンピュータによって生成される音響で表現されます。巫女の祈りのなかで怒りは愛へと変容し、静寂が訪れる事を願いました。この作品は、神戸国際現代音楽祭で1995年11月4日に初演され、同18日に横浜美術館で再演されています。海外初演は、ICMC'97(テサロニキ・ギリシャ)です。

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斎りの庭

"斎りの庭" は、当初は私自身の心の葛藤の表現として計画されましたが、その後アイディアが変化し続けています。多分、悩める心の死と再生をテーマにしたレクイエムになると思われます。この新作は現在作曲中なのでコメントできませんが、最終的には楽しい音楽になる様に思います。

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夢の炎

"夢の炎" の作曲の動機は、私の見た夢に現われた聖俗入り交じったイメージです。音響素材のソースには、無響室で録音された声、市販のCD、ポルノビデオ等が含まれています。これにコンピュータ・サウンドが加わり、変容され、これらの音響を背景にして能管の即興演奏が行われます。この作品のテープヴァージョンは、1994年11月に神戸ジーベックホールで行われた「コンピュータ音楽の現在」で初演されています。

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月下の廃虚

"月下の廃虚" は、世阿弥の能「融」からインスパイアされた作品で、かつて栄華を誇った屋敷跡に現われた源融の幽霊が、月光に照らし出された現在の廃虚で舞い、現在と過去、現実と夢幻が交錯し、やがて幽霊は消えて行というストーリーです。この作品のテープのみによる初演は、デンマークのルイジアナ現代美術館で1995年9月に行われ、謡との共演による再演はICMC '96 in Hong Kongで1996年8月に行われ、1997年3月にSwedish Radio(スェーデン)から放送されています。

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思いの丈

"思いの丈" は、「竹取り物語」にインスパイアされた新作です。

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以上の作品は、いずれも1995年10月16日に、浜離宮朝日ホールで開催された個展コンサート「思いの丈ー息とサイバーサウンドのための」で演奏されています。
以上の様に、これらの作品は能、夢、物語などにインスパイアされてはいますが、これは私の内部にある「何か」を表現するきっかけになっているだけで、ストーリーを再現する意図はありません。またこれらの作品では、何らかの形で死、変容、再生が扱われていますが、これも意図的に計画されたという訳ではなく自然な成り行きです。実はこのプログラム・ノートを書いている最中に、この事に気付いた次第です。