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2005年06月09日

西川泰夫・波多野誼余夫編著、『心の科学』、放送大学教育振興会、2004年.

 古代より心の在処については様々な論議がなされて来た。心とは知性、思推することであり、この実現は脳の仕組みによって営まれている。脳神経科学の発展とともに、並列分散処理やパターン変換などの仕組みが解明し始めている。脳の最大の特徴は、仕組みや構造に加え、固有な昨日や働きであり、自己組織化や学習能力、その結果の創造的問題解決や能動的適応力の高さである。
 人の心は脳のシステムによって実現されていることは自明となりつつある。脳の状態がより複雑に組織化され、新たな状態に移ったとき、心の自覚や創発を生成するという考え方が出現しているが、心の物質基盤となる脳の仕組みは並列の二値論理素子であることが指摘され、記号の処理、操作システムであることが指摘されている。また、これはニューロンの発火、抑制といった現象が閾値によって二値に確率的に分けられることで実現している。こうした脳の仕組みは根本的に、複雑な事象を複雑なままとらえるには適しておらず、事象を認知する為には対象を二値演算できる論理という構造に分解して与える必要がある。これを認知限界と呼ぶ。
 混沌とした物理的世界に秩序を与え、固有の物事を認識すること、何らかの意味内容を抽出することは考えることに必要な脳の働きの一つである。この「何かあるもの」に具体的な形を与えているのが「情報」である。何かあるものの包括的な「意味内容」は情報そのものではなく、それを変換処理した結果が情報であり、物理的な現象である脳に対してもそれに対応するものが存在すると考えることができる。このとき、心とは入力から出力に至る情報の流れを制御する「情報処理システム」としてとらえ直すことができる。情報とは負のエントロピーを与えるものとして定義できる。
 心とは情報処理システムであると同時に記号の処理、操作システムである。記号の処理、操作とは一定の規則に則り秩序づける操作でこれは計算であり、この規則の集合の全体が現実の意味論であるといえる。これらの要素を備えたとき、さらに考える機械「人工知能」を作ることができるという命題が発生する。

■ コメント
 先生のおっしゃるようによくまとまった本であることがやっと実感され始めました・・・。あらゆる認識のボトルネックは人間の認知であり、人間の認知をよりうまく活用したり、これにあわせた人工物を設計したりするにあたり、認知科学が基礎として必要であることが改めて感じられた。また、考えるという記号の処理だけでなく、あらゆる意味のないものに対し意味付けし、組織化してゆくという働きが設計など社会の根源なのではないかということを考えさせられた。(小池由理)

投稿者 student : 2005年06月09日 06:41

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