小熊研究会1 1211(月)

総合政策学部4 石野純也 79700729

30分でわかる『ディスタンクシオン』」

 

 

1.      著者、ピエール・ブルデューの略歴

    1930年、フランス南西部のベアルン地方の小さな町の郵便局職員の子供として誕生

    パリの有名リセ、ルイ大王校に進学→エコール・ノルマル・シュペリユール(高等師範学校)に入学

    哲学の教授資格を得た後に徴兵→民族学的研究、社会学的研究を経て1981年コレージュ・ド・フランス教授に就任

 

 

2.         「趣味」の選択と象徴的闘争

・「趣味」を自由に選択する事は出来るのか→「NO

「自然の(生まれつきの)趣味というイデオロギー」(ピエール・ブルデュー『ディスタンクシオン』105項)

家庭環境(「階級」)や教育程度の違いによって選択も異なる(が、そうだとは思われていない=「誤認」)

「科学的観察は文化的欲求がじつは教育の産物であることを示している。」(同上4項)

 

ex. 「純粋趣味」と「野蛮趣味」(「自由趣味」と「必要趣味」)の対立

「美的性向とは、日常的な差し迫った必要を和らげ、実際的な目的を括弧にいれる全般化した能力であり、実際的な機能をもたない慣習行動へむかう恒常的な傾向・適正」(同上85項)

vs

「彼らは芸術上のものをシステマティックに実生活上のものへと『還元』し、『人間的』な内容のために形式を括弧に入れてしまうことになるのだが、」(同上68項)

 

 

・趣味を選択するという事→分類(=差異化)し分類されるという事

「趣味は分類し、分類する者を分類する」(同上11項)

→人々によって分類される ex. ヨットはブルジョワの趣味、サッカーは庶民の趣味

→趣味によって分類される ex. ヨットを好むからブルジョワ、サッカーを好むから庶民

192193項参照

(どのように分類するのか?)

他のものを否定することで差異を設ける

「趣味に関しては、他のいかなる場合にもまして、あらゆる規定はすなわち否定である。そして何よりもまず嫌悪なのだ。」(同上88項)

ex. 自分の趣味は即物的なものと「違うと主張する」事、正統的なものには「興味が無い」と否定する事etc…

(何を基準に分類されているのか?)=ネコが先か犬が先か…

希少性(物的・時間的etc)→正統的(と見なされている)ものを基準に分類される

「消費者の選択にゆだねられたあらゆるもののなかで、正統的な作品ほど分類=等級づけ作用の強いものはない。それらは全体として他から区別される一方で、ジャンル別、時代別、手法別、作者別などの区分・下位区分をおこなうことにより、その内部でも無限に細かい区別を生みだしてゆくことを可能にするのだ。」(同上26項)→正統的な趣味を中心に様々な差異を作り出す→下位区分については『ディスタンクシオンU』の図を参照

(なぜそれが「正統的」なのか)

(本当は)無根拠

正統的なものに異議申立てる事による「共犯関係」(同上386項)→否定によって「正統的」なものの「正統性」を認めてしまう事になる(exブルジョワ/被支配集団(教授層)の象徴的闘争)

or

自分もそうなりたいという願望=プチブルの上昇志向→「卓越性の承認」(同上389項)

「はじめからかならず負けるとわかってスタートするこの種のレースに参加する者は、競争しているというただそのことだけで、彼らが追いかけている先行者たちの追求目標の正統性を暗黙のうちに認めていることになるからである。」(同上258項)

 

 

3.      差異(構造、ハビトゥス、実践)

・「階級(構造)→趣味(実践)」という構造決定論の回避

「場」と「ハビトゥス」による「プラティーク」の関係論的決定

「ある一人の行為者がおこなうすべての慣習行動や仕事は、さまざまな場にそれぞれ固有の論理が要請する転換操作によって、同一の構造化する構造(作り出す方法modus operandi)が生みだす多様な構造化された生産物(作り出された作品opus operatum)であり、…同じ階級のあらゆる人々の慣習行動や仕事客観的に協和しているものである。」(同上264項)

=ハビトゥス→慣習行動←場の論理

    同じような生活条件&社会的に占める位置→ハビトゥスの相同性→同じ「階級」の人間を結び付ける

    「場」が異なれば同じ「ハビトゥス」でも表面的には違った慣習行動を生み出す(逆もまた真)

ex. 「たとえばつねに節約というかたちで現れるであろうと予想することもできたはずの同じ禁欲的エートスが、ある特定の分脈においては、クレジットを利用する特殊な方式のなかに現れてくることもありうるといった具合である」(同上265項)

 

 

・「ハビトゥス」とは?

「ハビトゥスは構造化する構造、つまり慣習行動および慣習行動の知覚を組織する構造であると同時に、構造化された構造でもある。なぜなら社会界の知覚を組織する論理的への分割原理とは、それ自体が社会への分割が身体化された結果であるからだ」(同上 263項)

「(部分的あるいは全体的に同一性をもった)知覚、思考、評価、行為のシェーマ」(ブルデュー&パスロン 『再生産』57項)

・客観的な生活条件によって条件付けられる

ex. 資本総量・資本構造(経済資本、文化資本、社会関係資本etcの割合)→資本総量の差異によって支配階級と被支配階級の「ハビトゥスの差異」が決定される&資本構造の差異によって支配階級内の支配集団と被支配集団の「ハビトゥスの差異」が決定される

・物事を(意識的にも無意識的にも)知覚し評価する→一見何の関係のないもの(ex. 食品の選択と美術品の選択、態度等)をも体系的に選択する

「たとえばある老家具職人がもっている世界観、、家計・時間・身体などの管理法、言葉遣い、衣服の選びかたなどがすべて、彼の細心の注意で申し分のない仕事ぶり、丁寧で入念で完璧な仕事ぶりに見られる倫理観のうちに、そしてまた作品を作るのにどれほどの細心さと忍耐を要したかによって自分の作品の美しさを判定するような、仕事のための仕事という美学のうちに、そっくりそのまま現れている」(『T』266項)

 

cf (主な)各集団のハビトゥス

ブルジョワ=卓越化自体を否定する卓越化、余裕、自然な振る舞い

教授層=貴族的禁欲主義、学校的

プチブル=上昇志向、不安、焦り

庶民=必要趣味

 

趣味は分類されるだけでなく分類するのだから…

・差異は「社会的アイデンティティー」を形成する

「もろもろの財はそれらが関係的に知覚されるやいなや弁別的へと転換する」(『U』364項)

「社会的アイデンティティーは差異のなかで規定され明らかになるのだ」(『T』 263項)

単純化すると…

社会的条件1→ハビトゥス1→慣習行動1→アイデンティティ1

                              ↑↓(象徴的闘争)

社会的条件2→ハビトゥス2→慣習行動2→アイデンティティ2

 

 

4.       『ディスタンクシオン』の社会学的意義

・手法

構造主義(記号論)+マルクス(「存在は意識を規定する」)+ウェーバー(理解社会学)

 

・経済学・社会学・統計学批判=実証主義批判→「えせ学問」(同上189項)

ex.「経済学者たちは平気で抽象化をおこなうので…消費者たちがみなある生産物について決め手となる同じ属性を知覚しているのだと仮定して(いる)」(同上157 ()内引用者)

「さまざまな指標(それらは何にもまして構造破壊の道具である)を作り上げる事で…抽象的な層…の連続体へと社会界を還元してしまおうとする…社会学の伝統の全体と縁を切る」(同上 190項)

行為者の様々な行為を解釈、行為者がものに対して抱く解釈の違いを分析できる

 

・『ディスタンクシオン』の社会学的意義

方法論的個人主義(ウェーバー社会学、エスノメソドロジー)と方法論的集合主義(デュルケーム社会学、パーソンズ流システム論)の統合

一方で行為者の主観的行為を解釈

一方で行為者を拘束するハビトゥス、プラティーク

 

・ブルデュー社会学に対する批判

「決定論」である

歴史的考察がない→「ディスタンクシオン」はいつから始まったのか…

 

 

5.      まとめ

    人々は趣味(慣習行動)を分類(差異化)しその趣味(慣習行動)によって分類(差異化)される

    差異化は上から始まる

    自らを卓越化したいという象徴闘争に参加する事によって差異化されてしまう

 

 

6.      おまけ(ブルデュー最新情報…ブルデュー講演会より)

『ディスタンクシオン』の理論を国際的に拡大→「ブルジョワ/中間階級/庶民」の差異の理論を「アメリカ/日本・ヨーロッパ/発展途上国」という図式まで拡大

グローバリゼーション、市場万能主義、メディアコングロマリットを批判→「第二の帝国主義」

「知識人」の象徴的権力を最大限に活用した「新しい社会運動」を展開

 

 

参考文献

ピエール・ブルデュー『ディスタンクシオンT』(藤原書店、1990

同『ディスタンクシオンU』(藤原書店、1990

同『ピエール・ブルデュー』(藤原書店、1990

同『実践感覚T』(みすず書房、1988

ピエール・ブルデュー&ジャン=クロード・パスロン『再生産』(藤原書店、1991

 

方法論理解のために…

マックス・ウェーバー『社会学の根本概念』(岩波書店、1972

カール・マルクス『経済学批判』(大月書店、1953

別冊宝島編集部編『現代思想・入門』(宝島社、1984

別冊宝島編集部編『社会学・入門』(宝島社、1993

 

ブルデューの略歴…

竹内洋『日本の近代12 学歴貴族の栄光と挫折』(中央公論新社、1999

 

 

参考資料

「文化資本capital culturel  広い意味での分かに関わる有形・無形の所有物の総体を指す。具体的には、家庭環境や学校教育を通して各個人のうちに蓄積されたもろもろの知識・教養・技能・趣味・感性など(身体化された文化資本)、書物・絵画・道具・機械のように、物資として所有可能な文化的財物(客体化された文化資本)、学校制度やさまざまな試験によって賦与された学歴・資格など(制度化された文化資本)、以上の三種類に分けられる。」

 

「社会関係資本capital social  さまざまな集団に属することによって得られる人間関係の総体。家族、友人、上司、同僚、先輩、同級生、仕事上の知人などいろいろあるが、そのつながりによって何らかの利益が得られる場合に用いられる概念で、いわゆる『人脈』に近い。」

 

「行為者agent  慣習行動の主体として社会的にとらえられた個人。実質的には『人』と置き換えて読んでもさしつかえなかろう。」

 

 

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