土曜4限 小熊研究会1 総合政策学部4年 石野 純也 79700729

「30分で分かる功利主義 −ベンサムとJ・S・ミルの思想を中心として−

 

  1. ベンサムとJ・S・ミルの時代背景
  2. ベンサム「現在でもイギリスには単一の法典はないが、当時のイギリスの司法は混乱そのもので。議会の制定した制定法はあったが、一般の人々の生活を支配していたのは、それぞれの地域での昔からの慣習にもとづいて裁判官がくだした判例の集まりであるコモン・ロウである。(以下略)」(関 嘉彦「ベンサムとミルの社会思想」 13項『世界の名著 49 ベンサム J・S・ミル』 中央公論新社、1979

    イギリスの司法制度が混乱を極めていた時代であった

     

    ミル「このミルの一生はイギリスがナポレオンとの戦争を開始した直後から、その後の経済的困難の時代を経て、その繁栄を天下に誇示したヴィクトリア女王の治世の前半までの、もっとも変化のはなはだしい時代に相当する。」(同上36項)

    イギリスという国家が激しい変化に見舞われていた時代であった

     

     

  3. 功利主義的認識論
  4. T 人間の思考活動→観念連合(ジェームス・ミル 心理学に基づく)

    「(観念連合とは)外界の刺激は印象を与え観念を生ずるが、二つの印象および観念がしばしば相次いで経験されると、二つの印象または観念が与えられただけで、他の観念を呼びおこすという心理法則である。」(同上37項)

    (同時体験) (観念連合)

    ある経験 喜び ある経験=喜び

    人間はこの記号操作を行える限りで合理的である

    功利主義的人間観→人間の能力は環境に左右される→教育の重視

     

    U その結果「社会とは、いわばその成員を構成すると考えられる個々の人々から形成される、擬制的な団体である。」(ベンサム「道徳および立法の諸原理序説」同上に収録 83項)

    社会とはロックの社会契約説のように契約によって成り立っているものではないし、ボダンの主権の概念に象徴されているような個人の総和を超えた恒久的なものでもない

     

    TとUより→自然権の否定 「(前略)自然権などというものは存在しない−政府の設立に先行する権利などというものは存在しない−法的権利と対立し、それと矛盾する自然権などというものは存在しない」(ベンサム 『「人間および市民の権利の宣言」の検討』 小笠原、小野、藤原『政治思想史』より抜粋)

     

     

  5. 功利主義、功利性の原理とは?

「自然は人類を苦痛と快楽という、二人の主権者の支配のもとにおいてきた。われわれが何をしなければならないかということを指示し、またわれわれが何をするであろうかということを決定するのは、ただ苦痛と快楽だけである。」(ベンサム「道徳および立法の諸原理序説」同上81項)

「功利性とは、ある対象の性質であって、それによってその対象が、その利益が考慮されている当事者に、利益、便宜、快楽、善、または幸福[これは現在の場合、すべて同じことになるのであるが]危害、苦痛、害悪または不幸が起こることを防止する傾向をもつものを意味する。」(ベンサム 同上 83項)

2のUより

「社会の利益とはなんであろうか。それは社会を構成している個々の成員の利益の総計に他ならない」(ベンサム 同上 83項)

 

快楽を求める人間の性質 快楽=善 苦痛=悪 社会全体の幸福の増大=善

立法者の役割→(制裁(sanction)を用いながら)社会全体の幸福を増大させる 「社会を構成する個々人の幸福、すなわち彼らの快楽と安全が、立法者が考慮しなければならない目的、それも唯一の目的であること、それこそ各個人が立法者に依存しているかぎり、それに従って自分の行為を形成するようにさせられなければならない唯一の目的である。」(ベンサム 同上108項)

 

その結果 法律の目的→幸福の増大 害悪の除去→最小限の刑罰 ex. パノプティコンの創造

 

ベンサムの問題点(幸福はどの様にして計量され得るのか?)

快楽と苦痛の計量の基準

  1. その強さ
  2. その持続性
  3. その確実性、または不確実性
  4. その遠近性

 

その基準から

Σ快楽−Σ苦痛>0

Σ快楽−Σ苦痛<0

「一方においてすべての快楽を、他方においてすべての苦痛を総計する。もしも、その差し引きが快楽の方に多いならば、それはその個人の利益について、その行為の全体としてよい傾向を与えるであろうし、もしも、その差し引きが苦痛の方に多いならば、それは全体として悪い傾向を与えるであろう。」(ベンサム 同上114項)

 

その基準(standard)は分かるが、それをどの様に(how)計算するのかが示されていない

そもそも「快楽」や「苦痛」の様な主観的なものの「強さ」を計る手段が存在するのか?

 

 

  1. ミルによる功利主義の修正(「功利主義論」を中心に)
  2. ベンサムの功利主義との違い: 快楽・苦痛の量だけでなく質も重視→道徳的善の重視

    「満足した豚であるより、不満足な人間であるほうがよく、満足した馬鹿より不満足なソクラテスであるほうがよい。」(J・Sミル 「功利主義論」 同上470項)

     

    功利主義→道徳的強制力をもつ

    道徳への外的強制力:「同胞への愛情と共感」(同上489項)

    道徳への内的強制力:「心中の感情」(同上489項)

    →これらに逆らう時、苦痛を感じる

     

    「…道徳的能力も、人間性の一部でないにしても、人間性から自然に発達したものである。そして、わずかながらも自発的に発生できるし、開発(教養)によって大いに伸ばせる」(同上492項)

    環境決定論と道徳的自由の感情の折衷主義

     

    ミルの功利主義のまとめ

    質の高い快楽の存在→功利主義(質の高い快楽が多い方が良い)→道徳的行為→そのために法律、教育や世論の力を利用する

     

    正義:「正義とは、ある種の道徳律をあらわす呼び名であって、処世上のどんな道徳律よりもさらに緊密に人間の福祉の本質にかかわり、従って絶対的な拘束力をもつ」(同上523項)

     

     

  3. 『自由論』
  4. 「言論・出版の自由や思想の自由といった市民的・社会的自由、つまり社会的権力からの自由を直接の主題として論じた」(小笠原、小野、藤原 同上251項)

     

    社会的背景

    政治・教育などを通じた平等化の進展→世論への同調→没個性化

     

    意見の自由、意見の発表の自由が必要な理由

    もしかしたらその時代の支配的な意見が間違っている可能性があるので

    間違っている意見にもわずかながらに真理が含まれているので

    真理をドグマにしないためには討論を通じて真理を論理的に理解する事がひつようであるので

    自由な討論がなければ人格と行為に与える重大な効力を奪われてしまうので

    「功利主義の原則に従っている」

     

    帰結

    少数者の尊重「同じ多数者の意見が、一身上の行為という問題について、少数者のうえに一つの法として課されると、それは正しいこともあるのとまったく同様にまちがっていることがある。」(ミル 「自由論」 同上311項)→ 意見の自由を保護

     

    権力の分散「能率と矛盾しないかぎりでの権力の最大限の分散、しかし可能な最大限の情報の集中化とそれの中央からの拡散、である。」(同上346項)→ 意見を自由に言わせる能力を身につけさせる訓練

     

     

  5. 「代議政治論」
  6. 権力への自由を論じたミルの著作

     

    統治形態をその統治を受ける国民に適応させるための条件

    国民が一定の統治形態をすすで承認する→服従

    国民がその統治形態の永続を進んで行う

    その統治形態の目的を果たすための要求を国民が進んで行う→道徳的、知的能力の向上

     

    良い政府「われわれはある政府の長所の一つの基準として、その政府が統治者の集団的または個人的なよい資質の総計を増大させる程度を考えることができる。」(ミル 「代議政治論」 同上375項)→功利性の原理に従っている事が重要である

    「すなわち社会のあらゆる緊急の必要をみたすことのできる唯一の統治は、全国民が参与する統治であること、ごくわずかな公的機能に参与するだけでも有益であること、その参与はあらゆる場合に、社会の進歩の一般的な程度が許すかぎり大きくなければならないこと、また究極的に望ましいことは、すべての人々が国家の主権への参与を許されるということにほかならないことがこれである。(中略)完全な統治の理想的な型は代議政体でなければならないのである。」(同上405項)

     

    例外

    代議政治が適用できない社会:

    未開社会(第一条件の服従を身につけていない)→専制によって服従を覚える必要がある

    服従し易く消極的な国民→代議政治を維持する事ができない

     

     

  7. まとめ

ベンサム 社会的な快を増大させる事が善であり、政府の役割もそこにある

ミル ベンサム+道徳

 

功利主義の帰結

功利主義は今日の自由民主主義の基礎付けを行った ex. 重過ぎない刑罰、少数意見の尊重、分権制、等々

今日の学問にもその影響を及ぼしている

等々

 

参考文献

小笠原弘親、小野紀明、藤原保信 『政治思想史』(有斐閣、1987

関嘉彦 編集責任 『世界の名著49 ベンサム ミル』(中央公論新社、1979