小熊研究会1 政治思想第3回「イギリス政治思想」
総合政策学部3年 青柳直樹
◎国家を解釈するのではなく、いかにして構成するのか。
国家、政治社会というものは、自然に与えられたものではなく、
人間の組織として、人間が最も望ましい形に組み立てるべきものだ。
1.原理的展開の土壌
(1)宗教改革
国教制度への反発 ⇒ (権力による思想の独占への反発) ⇒ 政教分離
権威が根拠を失い、伝統的な偶像(身分・階層秩序)が破壊されていく。
内面の自由の要求を通じて「個人の自由」が確立されていった。
(2)自然科学
自然科学の発達 ⇒ 理性による合理的計算
(3)革命の時代
革命期ゆえに、国家を構成していくような政治思想が生まれてきた。
2.ホッブズ
(1)自然状態
ホッブズは、人間を一個の生物として その自然本性を捉えるところから始めた。
そこには いかなる道徳的拘束も 政治的権威も 秩序も存在していない。
・自然権としての自己保存 (個人の権利、欲求の肯定)
「人間にとって自然であることを罪とするのは、人間の存在自体が罪だというのと同じだ」
「自然権とは、各人が、その自然すなわち自己の生命を維持するために、その欲するままに自己の力を
用い得る自由である。したがって、各人は、自己の判断と理性とにおいて、これに最も適当な手段と
思われる何事をもなし得る。」 『リヴァイアサン』
自由で平等な個人
「自然は、肉体の諸能力においても、また精神の諸能力においても人間を平等に作った。 (中略) 人と人
との差異は、それによってある人だけが他人の主張し得ない利益を自らに要求しうるほど著しくはない。」
戦争状態
自然状態は「万人の万人に対する戦争状態」となる。
(2)自然法
死の恐怖 と 理性(の推論能力)によって発見される。
自然法(義務)は自然権(権利)のよりよき実現のために存在する。
自然法 @平和への努力を行う
A平和と相互の防衛のために 自然権を相互・同時に放棄する
B自然権の相互放棄の為に結んだ 信約を遵守する
(3)絶対主権(リヴァイアサン)
自然法を遵守させるための 強制力の必要性(刑罰による他律)
無制約な自然権を制御するための、無制約な絶対主権
(個人的抵抗権に関しては留保されている。)
(4)ホッブズの功績と限界
功績 … 身分や特権に支えられた階層制的な封建社会の秩序を一掃して、
自由で平等な個人を析出するという画期的な意義を持っていた。
限界 … 非自律的な人間は、自分で秩序を作り、安定した生活を営むことができない。
3.ロック
(1) 自然状態
・所与としての自然法
理性の法である自然法が、生命、自由、財産という相互の自然権の侵害を禁じている。
自分自身の自然権を侵されないためには、他人の自然権を尊重するのが重要である。
しかし、自然法の解釈・執行は 各人に委ねられているために恣意的にならざるを得ず、
ロックの自然状態もまた、戦争状態に転落する可能性を潜在的に含んでいる。
・自律した人間 (ロックは、理性的でかつ勤勉な個人を対象としている。)
労働による 私有所有権の正当化
各人は自分自身の身体とその諸能力の所有者であり、かつ人間のために有用な事物の価値の99%は
労働の所産であるがゆえに、労働の産物は各人の所有権として各人に帰属するのが正当である。
貨幣による 富の蓄積の正当化
貨幣の導入によって単に私的所有権のみならず、富の無限の蓄積をも正当化して行った。
(2)同意による政府(制度としての国家)
「人々は、生まれながらにして全てが自由で、平等で、かつ独立であるので、何人も、自分自身の同意なしには、
このような状態を追われて、他人の政治権力に服することはありえない。いかなる人も、自分の自然的自由を失い、
政治社会の絆を身に負うようになる唯一の方法は、彼らの所有権の安全なる享受と、その社会以外の者に対する
大いなる保全とを通じて、お互いの間で豊かで、安全で、平和な生活を営むために、他人と合意をかわして
ひとつの共同社会に結合することである。」 政府論第二論文第八章「政治社会の誕生について」
・信託による統治
最初の政治社会への結合は全員一致を原則とし、その後の政治権力の運用は多数決を原則とする。
・人民の革命権
法の支配が崩された場合、人民の所有権が侵害された場合、人民は政府を解体することができる。
・立法の至高性と制約
第1に、立法権力は、自然法に則り、常に公共の利益のために行使される
第2に、立法権力といえども、自分自身が制定した法によって拘束される
第3に、立法府は立法権力を他に移譲することはできない
・外的機構としての政治機構(内的世界への不干渉)
政治権力は、富の配分を具体的に決定するものではなく、各人の所有権を保証しつつ、
かかるメカニズム(交換市場)を外的に維持するために存在するものである。
(3)ロックの功績と課題
功績 … 非常に不安定な人間を個人として自律させた。
安定した構成原理としての国家の理論を構築した。
4.参考文献
内田・内山・河中・武者小路「現代政治学の基礎知識」有斐閣ブックス
小笠原・小野・藤原「政治思想史」有斐閣Sシリーズ
福田歓一「近代の政治思想」岩波新書
福田歓一「近代政治原理成立序説」岩波書店
藤原保信「自由主義の再検討」岩波新書
藤原保信「近代政治哲学の形成」早稲田大学出版会
トマス・ホッブズ(水田洋訳)「リヴァイアサン(一)〜(四)」岩波文庫
ジョン・ロック(鵜飼信成訳)「市民政府論」岩波文庫
J.W.N.ワトキンス(田中浩・高野清弘訳)「ホッブズ その思想体系」
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