小熊英二研究会1シラバス

社会学を学ぶ(Learning the Base of Sociology)

研究プロジェクト形態:B.テーマ別

担当者:小熊英二

 

 

1、目的・内容

 

 現代社会は、さまざまな問題があふれている。政治、経済、文化、格差、環境、性別、民族、外国人、南北問題など。日常的にも、マスメディアを通じてもいやおうなく入ってくるこれらの問題に、われわれはどう対処したらよいだろうか。その一端として、この研究会では社会学をとりあげる。

 社会科学全体のなかでいうならば、政治学は政治を、経済学は経済を、社会学は社会をあつかう。しかし政治学や経済学などにくらべ、社会学という学問は、およそ漠然としてつかみにくい。それは何よりも、「社会」という対象そのものが非常に多様であるからである。

 政治学や経済学にくらべ新しい学問であった社会学は、いわばこの世の人間の営みから、「政治」や「経済」などの言葉で特定できない現象すべてをカバーするために発生してきた学問であったといってよい。しかも、従来の政治学や経済学の分析から漏れた部分をも対象としたため、およそこの世の人間がかかわる行為で、社会学の対象となっていないものはない。たとえば、文化、家族、自我、メディア、都市、農村、宗教、音楽、国家、歴史、性、フェミニズム、環境、産業、労働、政治行動その他なんでも、その後ろに「社会学」とつければ「○○社会学」ができあがる。このとりとめのなさ、裏を返していえば自由さこそが、社会学の最大の特徴である。

 この研究会では、こうした社会学の各分野の基本図書の講読と講義をつうじて、社会学にかんする基礎的な理解と概観を把握することを目標とする。社会学は流行りすたりが激しい学問のなので、政治思想などと異なり、今さら学んでも意味が薄いような「古典」も多い一方で、バブルとしか思えないような「新潮流」も少なくない。そのなかから、可能なかぎり現在において学んで意味があると思われるものを選択する。

 とくに、最近の注目であるポストコロニアル論やアイデンティティ論、フェミニズムの一部などには重点を置く。

 なお、並行して開講される「ヴィジョンと社会システム」で、社会学の「基礎の基礎」を講義する。そちらをまだ聞いていない者は、並行して受講すること。

 

2、授業スケジュール

 

 1回のオリエンテーションと講義を経て、発表と講義を行なってゆく。

 

3、参考文献

 

 受講予定者は、登録後にとりあげる課題図書を通知する。10冊前後指定するが、どれも「ためになる」本なので、夏休み中に目を通すよう努力すること。

 社会学は多様なうえに流行が激しいので、決定的な入門書はない。「古典」の概観として比較的よいと思われるものは以下の二点。

 

  新睦人ほか編「社会学のあゆみ」(有斐閣選書)

 

  長田攻一「社会学の要点整理」(実務教育出版)

 また最近の流行が知りたい人は

 

  月刊アエラ別冊「社会学がわかる」

 

 参考文献に持っておいて良い本として

 

  中公新書(930)「現代社会学の名著」

 

 佐々木毅編「現代政治学の名著」、奥井智之著「60冊の書物による現代社会論」なども、一応カタログとして役に立つ。

 研究会でとりあげる本については、追って指定するが、以下のものは読んでおいて損はない。

 

フーコー「監獄の誕生」(新潮社)

アリエス「<子供>の誕生」(みすず書房)

ボードリヤール「消費社会の神話と構造」(紀伊国屋出版)

ブルデュー「ディスタンクシオン」(藤原書店)

アンダーソン「想像の共同体」(NTT出版)

ウォーラーステイン「史的システムとしての資本主義」(岩波書店)

落合恵美子「21世紀家族へ」(有斐閣)

内田善彦「資本論の世界」(岩波新書)

井上輝子「女性学への招待」(有斐閣)

 

 一冊も読んだことのない人でも、「ヴィジョンと社会システム」と並行して受講すればわかるように説明する。ただし、事前にできるだけ本を「見て」おくこと(いきなり読んでわからないとしても)。

 「全部読んだことがある」と言う人は、もう一度読むことを薦めるが(よい本は何度読んでも発見がある)、別途「中級コース」の文献を紹介する。


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