〜人間は緻密さに耐えうるか?〜
慶應義塾大学 教職科目等履修生
野村 知一
コメント
・『植民地帝国日本の文化統合』内容説明
・『〈日本人〉の境界』との比較と雑感
『植民地帝国日本の文化統合』(駒込武著 岩波書店 1996年)内容説明
1.著者について
1962年東京生まれ
東京大学大学院教育学研究科博士課程(教育史専攻)を修了、1992年度からお茶の水女子大学専任講師、同助教授を経て、1999年10月から京都大学大学院教育学研究科教員。1996年に在外研究でスコットランドに滞在。
専 攻: 植民地教育史・東アジア近代史・台湾史・アジア教育史
最近の研究関心:帝国日本の植民地支配と大英帝国の宣教師たち
日本とイギリスの植民地支配を串刺しに論じる方向性。
著書: 『現代教育史事典』東京書籍,2001年(共著書)
「「文明」の秩序とミッション―イングランド長老教会と19世紀のブリテン・中国・日本―」『年報近代日本研究19 地域史の可能性―地域・世界・日本―』山川出版 1997
2.研究の動機
@)Old Comer(在日韓国・朝鮮人、在日中国・台湾人)の存在とNew Comer(インドシナ難民、多数の外国人労働者)の流入という現状と諸研究に触発される。
>>>多民族国家にふさわしい制度と理念が欠落したままの現状への警告
A)「同化政策」「皇民化政策」という言葉のインフレーションに対する批判
君島和彦『「帝国」日本とアジア』
「日本は、アジア太平洋戦争期の占領地を含めて、すべての植民地で皇民化政策を実施した皇民化政策の特徴は、その地域の歴史や文化を全く無視して『日本』を持ち込み、日本化を推し進めることである。経済的収奪だけでなく民族抹殺につながる皇民化政策を『天皇』を戴いて実行したところに、日本の植民地支配の特徴がある。」(駒込1996 p12 下線太字は発表者)
>>>時期・地域による差異、被支配民族の文化や動きを無視している。
もっと緻密な議論が必要。「同化政策」の細分化・分類
B)戦後植民地研究の偏向
>>>法制史的な観点からの政策史をふまえ、文化統合という位相に焦点をあてて植民地帝国日本の異民族支配を分析する。
主題
帝国主義的な膨張の過程にナショナリズムの自己否定の契機を見いだす。
丸山真男「帝国主義はナショナリズムの発展であると同時にその否定である」(駒込 p6)
B・アンダーソン「貸し衣装によって国民的装いをした帝国を魅力的なものにみせるだけの何らかの手品を工夫する必要があった」(白石訳 p148)
研究手法
雑誌論文・教科書など表向きに現れた資料と、政策主体の内部文書を利用し、テクノクラートやイデオローグの主張がいかなる現状認識に根ざし、どのような政策提言をおこなったのか、そして、実際の政策にどのように受容されたのか―あるいは、受容されなかったのか―を分析する。
研究対象地域・時代
中華文明圏:台湾・朝鮮・満州・華北
1895年〜1945年
中華帝国という「地」のうえにかろうじて描かれた「図」としての「日本人」(駒込 p233)
>>>沖縄を本格的な分析の対象としていないことは、大きな欠落である。(駒込 p391)
1919年以前
Key
Words ・憲法 ・教育勅語 ・日本語
第T章 台湾・1900年前後 〜中華帝国からの離脱〜
第U章 朝鮮・1900−10年代 〜弱肉強食と博愛平等〜
第V章 台湾・1910年代 〜差別の重層的な構造〜 呉鳳伝説の採用
1919年・孫文以後
第W章 朝鮮・1920−30年代 〜多民族国家体制の模索〜
三・一運動の影響 >>> 教育勅語修正論・朝鮮議会設置論
第X章 満州国 〜アジア主義の可能性と限界〜
民族自決・孫文以後 >>> 王道主義 「協力メカニズム」
第Y章 華北占領地 〜日本語共栄圏構想の崩壊過程〜
中国ナショナリズムと近代的教育施設の存在 >>> 日本語の混乱
結章
比較
1.近い関心
日本国内の多民族状況への関心
法制史的アプローチ
言説分析
2.せめぎあう「場」の設定・分析概念
『植民地帝国日本の文化統合』
a 中華文明圏に限定
b 法制度的次元 と 文化的次元に細分化
血統ナショナリズム(排除)と言語ナショナリズム
c 「協力メカニズム」論
膨張の逆流・防波堤
>>> 日本ナショナリズムをめぐるせめぎあいを描く
『〈日本人〉の境界』
a 1世紀にわたる北海道・沖縄・台湾・朝鮮
b 緻密な法制史(国籍法・戸籍法 属地主義)
c セクショナリズム(総督府)
後発性=欧米の軍事的脅威(>「有色の帝国」)
>>>境界上でせめぎあう〈日本人〉を重層的に描く
雑感1
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『植民地帝国日本・・・』 |
『〈日本人〉の境界』 |
ロゴス |
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エートス |
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パトス |
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雑感2 〜人間は緻密さに耐えうるか?〜
1.現実の複雑さを複雑なものとして提示することの難しさ
2.本の厚さ
3.官僚・政治家・運動指導者・研究者ではない「わたし」
参考文献
『植民地帝国日本の文化統合』駒込武 岩波書店 1996
『〈日本人〉の境界』小熊英二 新曜社 1998
『増補 想像の共同体』B・アンダーソン 白石さや・白石隆訳 NTT出版 1997