小熊研T『母性という神話』コメント                 

             〜近代日本の母性の発明〜

総合政策学部3年 青木智子

s00016ta@sfc.keio.ac.jp

 

◆発表について

バダンテールはフランスにおいて母性が女性に備わっている本能ではなく、社会に創造されたものであることを、実証した。では近代日本における母性に関しては、それがどのような過程で“本能”として社会的に創られてきたのか。それを本コメントの中で明らかにしていきたいと思う。

 

T.母性神話の形成

     明治政府と国家の政策

・富国強兵策

…「軍国の母」と女性をたたえ、良妻賢母主義による女子教育論が台頭。

    ⇒高等女学校令、女子教育の振興 

  「女訓書」の変容。実践的洋風化を図る。

・西欧的家庭(ホーム)イデオロギーの称揚

  西欧的概念である、清浄さ、無垢さを強調するリスペクタブルな道徳の守護者として

“家庭”母は道徳を伝える存在。

親子関係において恩や孝といった親と子の上下関係に基づく感情ではなく、親子が親しみ合い、家族が団欒を楽しむ親子の対等な情愛。

   …修身書における変化。家族関係は親密なもの。

・「母性」は家のためであり、集団への忠誠が優先。

…結婚の第一目的は、子孫をもうけること。

 夫婦個人間の性愛は無視され、子供をもうけるためには妾も公認された。

 ⇒子供を産み育てて母になることで、女性は嫁として、妻としての地位を確立。

  母性は子供を産み育てるための手段。道具。

…家の和合をめざす。

 ⇒良妻賢母とは、ものを考えず、自覚や自主性を持たず、自己を主張しない女性。

 

◆メディアにおける「母性」

 …家庭をめぐる道徳は近代国家や社会にふさわしい生活習慣や規範を家族の日常生活を通じて醸成していくためのイデオロギー。家庭が俗悪から守られ無垢であるべきという観念。清浄で光明溢れる家族の物語。

  ・明治30年代、家庭教育に関心が高まる。

   子供を中心とした雑誌の創刊。女性は家庭と国家の礎の責任者。

  ・家庭小説の隆盛

 

◆女性側の“母性”の受け止め方 

・国民としての“母”

 家庭における母の重要性を女性自身が強調。女性の地位や権利を高めようとする思潮が社会における女性の位置を家庭の中に“妻”“母として固定化させた。

(国民としての意識と自覚が強固にした)

・政治権利の獲得に性役割を利用 

自由民権運動の中においても、女性の政治参加権が冷遇されていた。

夫のよき相談相手、子供のよき教育者として政談傍聴を求める。

⇒女性の戦略的な母性の選択といえる。

しかし、結果として女性の自己犠牲の対象が家庭から国家に移っただけだった。

 

U.母性神話の助長

◆国策とメディア

・「人づくり政策」

高度経済成長期において未来の労働力の確保のために女性が家庭に入る。

・母性剥奪理論(ボウルヴィ)の利用

子供の発達において母親ないし代理者との愛情に満ちた継続的な関係が重要であり、施設への収容などによって愛着関係が絶たれると発達遅滞が引き起こされる。

  ⇒子供中心の日本においては、産みの母親に全責任を負わせた。

「三つ子の魂百まで」「雀百まで踊り忘れず」三歳児神話

・「母性」の指導的役割を果たした、助産婦、保健婦。

…国の政策に沿った役割。

・母性=価値的なシンボル

 偉大なる母イメージ。

・ホームドラマ

 結婚し家庭を持ち、子供をもっていることを前提とした場面。主に女性対象。

 一貫したライフサイクル。

◆女性による母性神話

 既に母となった母親自身が、今度は母性愛をかざして母とならない女性に対して揶揄するという加害性。

◆近代以降の日本における母子関係

「母子癒着」、「過干渉」

日本の近代は、良妻賢母の強調によって母性尊重のイデオロギーが強い。

母親が社会的に満たせない成就要求を息子との「同一視」によって代償的に満足させる「母」の強調によって、子供と母親の自立を阻み、病理現象を引き起こす。

 

◆日本と西洋における母性神話

母性愛は資本主義の台頭と共に誕生した近代家族の存続に必要とされた理念であり、人口が国家の財産である、という視点からも母性が強調された点は同じであるといえる。しかし、西洋においては母は子供を「他者」と位置付けているのに対し、日本は母子密着型である点は大きな違いである。

 

◆結論

近代日本において母性は、女性の本能ではなく、富国強兵策という国策の一つとして近代家族を管理するためのイデオロギー装置として女性に割り当てられたにすぎないものであった。しかし、女性の方でも自らを国民を産み育てる母として強調した。そうすることで男の下位にある女から国民の一人として地位と価値が高められることに繋がるからだ。それは後のフェミニズムの争点となるのだが、当時は両者において利害の一致するものであった。また、国家のイデオロギー教育によって身についた母性神話に翻弄された女性達が母とならない女性を排除することによって、女性を益々母役割の中に封じていった過程を見ることができる。

 

 

<参考文献>

牟田和恵『戦略としての家族』新曜社 1996

井上輝子・上野千鶴子・江原由美子『日本のフェミニズム 母性』岩波書店 1995

井上輝子・上野千鶴子・江原由美子『日本のフェミニズム 性役割』岩波書店 1995

船橋恵子、堤マサエ『母性の社会学』サイエンス社 1992

大日向雅美『母性愛神話の罠』日本評論社 2000

バダンテール『母性という神話』筑摩書房 1991

上野千鶴子『近代家族の成立と終焉』岩波書店 1994

坂本佳鶴恵『<家族>イメージの誕生』新曜社 1997

関口裕子・服藤早苗・長島淳子・早川紀代・浅野富美枝『家族と結婚の歴史』森話社 1998