2003111日(土)小熊研究会T

『人種・国民・階級』

エティエンヌ・バリバール

イマニュエル・ウォーラーステイン

総合政策学部3年 

鈴木麻衣子

 

■ 筆者紹介

イマニュエル・ウォーラーステイン 

1930年生れ。アメリカの社会学者・歴史学者。ニューヨーク州立大学社会学講座の主任教授。

エティエンヌ・バリバール

1942生れ。フランスの哲学者・政治学者。23歳で構造主義的マルクス主義の中心的文献をルイ・アルチュセールとの共著で発表して以来、マルクス主義理論家として世界的に著名。

 

■ 本書について

1988年刊行。1985年から1987年にパリ人間科学会館で開催されたセミナーで発表された論文を元に構成されている。二人は70年代以来、西欧マルクス主義を代表してきた論客。

【時代背景】

・マルクス主義革新/西欧マルクス主義

・ソ連邦の崩壊:マルクス・レーニン主義の階級闘争の一点張り/民族問題の空白 

・社会の変容;80年代以降先進国で目立ってきた移民労働者に対する排撃運動など

→人種、民族、エスニシティといったカテゴリーの分析が重要な課題となった。

 【主題】

現代の人種主義の独自的性格とは何か。現代の人種主義はナショナリズムや階級闘争とどのように結びついているのか。

「普遍的人種主義」「歴史的国民」「諸階級/両極化と重層的決定」

 

 

人種主義 ― 現代の人種主義はなぜ起こるのか?なぜなくならないのか?

【ウォーラーステイン】

     資本主義システム= 生産効率を最大にするために能力主義制度が生まれる。

               能力主義制度は政治的に不安定

⇒労働力の中心部と周辺部への分裂

⇒人種主義

     能力主義とは無関係な基盤を提供する

 

【バリバール】

○新人種主義(ネオ・レイシズム)の特徴

  脱植民地主義時代

遺伝的な身体的特徴ではなく、文化的差異に基づく人種主義 ex.移民排斥

     人口移動の国際化や国民国家の政治的役割の変化/「国境」概念のゆらぎ

     人種主義を構成してきた内部性/外部性という配置が再生産される

⇒国境に付与されていた社会的予防機能を個人レベルに適用する

 

○人種主義はナショナリズムから発生する

/人種主義はナショナリズムを補完するもの

     多民族国家に「国民」という政治的・文化的統一性

     ナショナリズムが住民に共通な内部の敵(=特定の人種)を創出することで一体感をはかる。

     ex.ドイツの反ユダヤ主義

・ 「真の同国人」の人種的・文化的アイデンティティは見ることは出来ない

     「偽の同国人」という可視的な特徴

     ⇒「完全なナショナリズム」

 

 

歴史的国民 ― 「国民」や「民族」をどう捉えるか 

     国民と民族は歴史的構築物として理解することが重要。

絶え間なく再構築されている。

【ウォーラーステイン】共時的/マイノリティのエスニック化

     社会構成体:人種、国民、エスニシティ

     「人種」中核−周辺の対立を維持

     「国民」近代世界システムの政治的構造に由来/主権国家が統合を強化するため創出

         中核地域と周辺地域を内部的に分断

     「エスニック集団」社会的な力の弱いマイノリティ集団/労働力の周辺/

              生存費以下の賃金で働くパートタイム労働者の世帯(ハウスホールド)

 

【バリバール】通時的/マジョリティのエスニック化

○国民国家の誕生・・・非国民的国家装置(ex.王家、帝国的形態)から

国民国家からあらたな国家構造 → 国民に転化できない社会構成体

○「虚構的エスニシティ」=「想像の共同体」を作るために「民族」が不可欠

言語共同体と人種共同体によって創出される

「言語共同体」:共同規範を作るための学校教育/社会的不平等を自然な事実に見せかける

「人種共同体」:閉鎖と排除の原理/「真の」国民と「虚構的に」国民であるものとに分類

    

   学校制度や家族制度が言語と人種を支える「国家のイデオロギー装置」

 

 

諸階級/両極化と重層的決定 ―マルクス主義はどこへ向う?

【マルクス階級論の3つの前提、その批判】

@     あらゆる歴史は階級闘争の歴史

←階級とは集団が形成される一つの次元に過ぎない

A     即自的な階級が必ずしも対自的な階級なのではない

←彼自身がどの階級に帰属意識を抱いているかによって決まる

B     資本主義の敵対関係はブルジョワジーとプロレタリアート、生産手段の所有者と非所有者のコンフリクトである。

←両極化は時間と共に縮小するのではないか?

1945年以後、西欧諸国の産業労働者は良い暮らし

 

【ウォーラーステイン】

     「即自的階級(世界ブルジョワジーと世界プロレタリアートの対立)」と「対自的階級(自覚された階級意識)」という問題設定に忠実

     資本主義世界経済においてみるとブルジョワ化とプロレタリア化という社会的分極化が起こっている

     ブルジョワジー:自分が創出したのではない剰余価値を取得し、その一部を資本蓄積に充てる

     ブルジョワジー化の拡大/ブルジョワジーは金利生活者になり貴族のように生活することを目指すが、労働者からの不正を排除しようとする圧力/常に企業の内部変革を求められる

     プロレタリアート:自らが創出した価値の一部を他者に移譲する

     プロレタリアート化の拡大=賃金所得への依存度を高めていく過程/資本主義システムの中で購買力増大のためにプロレタリアート化する

 

【バリバール】

     階級対立図式はもはや現実に照応しない

   賃労働関係の一般化、労働の知性化、第3次産業の発展→プロレタリアートの消滅

   所有機能と経営機能の分離過程の完成→ブルジョワジーの解体

     マルクス主義の経済主義的進歩主義は搾取関係の再生産において国家が果たしている役割を無視している/国家装置は市民社会の外部にある

→ブルジョワ階級は国家機構を利用する限り支配的になれる/

被搾取階級も国家の中に存在する(国家がなければ労働力は商品にならない。教育、社会保険)

     世界ブルジョワジーも世界プロレタリアートも存在しない

     世界国家も単一の国際通貨も存在しない

→資本の国際化は統一された社会的・政治的「ヘゲモニー」をもたらしたのではない

世界経済における中心と周辺の区別は搾取戦略の地理的および政治文化的な配分に照応している

     半周辺・二重社会/

     @資本制的生産様式A非賃労働に基づく生産様式

     労働力の二つの再生産様式は同一の国民的構成体の中に存在している

     階級闘争、階級形成は国民的構成体のレベルで分析されなければならない

 

 

まとめ − 「身分(人種主義)」と「共同体的」アイデンティティの問題

【ウォーラーステイン】ブラック・アフリカ

     身分集団(人種、カースト、宗教集団など)は国民国家の中で権力や財・サービスの配分を要求する集合的主張をする

     社会的抗争が先鋭化するにつれて身分集団は階級に近づく

    身分集団間の差異と相関関係にある階級間の差異が消滅しない限り、身分集団の抗争も消滅しない

 

【バリバール】フランス

     人種主義は階級構造の表れではない

   人種主義と階級闘争の関係は多様→単純に関連付けることは出来ない

     移民現象コンプレクスの形成+労働者階級の不安定化

     フランスでの「人種主義の蔓延」から人種主義から生まれる危機

     →社会問題のすべてを移民の存在に起因する問題に転化させる

 

 

■ 参考文献

イマニュエル・ウォーラーステイン『史的システムとしての資本主義』(岩波書店、1997)

大沢真幸『ナショナリズム論の名著50』(平凡社、2002年)。

川北稔『知の教科書 ウォーラーステイン』(講談社、2001)

姜尚中「世界システムの中の民族とエスニシティ」『岩波講座 社会科学の方法 第11巻 グローバルネットワーク』(岩波書店、1994)

Balibar,Etienne ,Immanuel Wallerstein ,Race,Nation,Class ,New York,Verso, 1989.