小熊研T『人種・国民・階級』コメント
ウォーラーステインの世界システム論
総合政策学部二年
高井佳奈子 s01514kt@sfc.keio.ac.jp
◆ イマニュエル・ウォーラーステイン
1930年生まれ。アメリカの社会学者・歴史学者。1947年にコロンビア大学に入学。1955年、アフリカに留学。1958年、コロンビア大学の教職につく。1971年、カナダのマギル大学社会学部へ。1973年、米国アフリカ学会の会長に就任。1976年からニューヨーク州立大学社会学講座主任教授およびフェルナン・ブローデル・センター所長を兼任。
・世界システム論とは
従属理論の発展。アナ−ル派の影響。構造機能主義。マルクス主義。
T「世界システム」の分類
・ 「世界帝国」・・・世界システム全体が政治的に統合されている。システム全体を支配する一つの政治機構が成立している。統治のためのコストが高い。(官僚制など)
・ 「世界経済」・・・近代の資本主義的な世界システム。分業体制はあるが政治的には統合されていない。統治機構がないのでコストが安い。15c末、西ヨーロッパで生まれ今日まで続いている。「極大利潤の実現をめざす市場むけの生産のために成立した、世界的分業体制」(近T,p11)
*各国はインターステイト・システムの制約をうける。
U「世界経済」・資本主義近代世界システム
・ 資本主義は史的システム。
・ 資本蓄積それ自体のために機能する自己言及的なシステム。
・ 大規模な商品化、商品連鎖。
・ 諸々の生産活動を統合する場。時間と空間の限定された具体的な存在。
1.商品化、商品連鎖、階層分化
資本蓄積のためには、市場を通じて余剰価値を生み出さなければならない。そのため
あらゆるものを商品化し、市場交換していく。交換によって余剰価値を得るために商品間の社会的価値の差が生じる必要がある。→不平等交換
世界規模で行なわれる商品連鎖は、世界規模の階層分化を生む。
労働力も商品化されるが・・・・
「自由な賃金労働」は世界の労働力のほんの一部。大半は強制労働や半プロレタリア。
←完全にプロレタリア化(賃金労働化)するとコストが高くなる。非/半賃金労はコストが安い。
生産的労働(賃金労働)と非生産的労働(自給的労働)の分業へ。
<半プロレタリア世帯をつくりだすための方法としての差別の論理>
成人男性による生産的労働は、女性、老人、子供による非生産的労働より価値が高い。(賃金労働は世帯の生活がかかっているから)
⇒性差別の制度化
民族集団を編成することによる労働力のエスニック化⇒人種差別の制度化
性差別と人種差別は労働者の階層化、不公平な分配を正当化するためのイデオロギー装置。
「性別や人種・エスニック集団が異なれば労働形態も異なって当然」
2.「中核」−「半周辺」―「周辺」
・「中核」・・・分業体制を利用して、経済余剰の大半を握る。製造業や第三次産業に集中。
「自由な賃金労働」が優越。
・「周辺」・・・鉱山業や農業といった第一次産業に集中。換金作物のための「非自由労働(強制労働)」が存在する。例)奴隷制、再版農奴制
・「半周辺」・・中核と周辺の中間。アジアやNIESなど。例)分益小作制。
「中核」からは工業製品が、「周辺」からは原材料、食糧が流れる。「中核」と「周辺」の分業体制により、中核諸国は中央集権化し、周辺諸国は「低開発化」され、両者の格差は拡大。「低開発」とは「世界経済」の分業体制の中で次第に生み出された歴史的産物。(従属派の思想)「中核」から賃金労働化し、システムは「周辺」に存在する非/半賃金労働を求めて拡大してゆき、「中核」と「周辺」との段差から利益を得る。
* 「中核」、「周辺」は変化する。
例)地中海→西欧→アメリカ
* 社会主義も利潤の最大化を目指している点で世界システムの一分業要素、一形態。
3.ヘゲモニー(覇権)
「中核」諸国の中の一国が圧倒的な経済力を確立し、他の「中核」諸国を寄せ付けない状況。現代はアメリカのヘゲモニーの衰退期。
4.国家の役割
国家はインターステイト・システム(国家間システム)の不可欠な一部として、資本主義世界システムを調整する。
<資本蓄積のための国家権力の三要素>
@ 領土の支配権(国境管理、国境政策)
A 社会的生産関係の支配を合法的に行なう
B 課税権
5.反システム運動
国家の下での資本蓄積により労働者への圧力、搾取が高まることで発生する。システムそれ自体を変革することを要求する運動。既存のヒエラルキーの中で自己の「上昇」だけを志向する傾向。
・ 労働・社会主義運動
・ ナショナリズム ⇒両者の融合へ
自滅的な戦略。史的システムの中での数少ない選択。
資本主義的世界経済の中に組み込まれている限りはいかなる国であれ、資本蓄積と言う至上命題がシステム全体を通じて作用してきた。→国家権力獲得のためには世界システムそのものを変える必要がある。
6.「進歩」について
資本主義はそれ以前に存在していた史的システムからの進歩ではない。資本主義は「進歩的なブルジョワジーが反動的貴族を打倒した結果」ではなく「古いシステムが崩壊したために自らブルジョワジーに変身していった地主貴族によって作られたシステム」。
7.システムの終焉
近代世界システムは終焉を迎えつつある。
・資本蓄積システムの物理的限界。
新たな地域、労働者の限界。
・政治的正統性の水準におけるシステムのパフォーマンスの低下 。
階級闘争の抑制、国家の正当力を維持する調整を行う力の低下。
・地政文化的な課題に含まれるディレンマ。
個人を歴史の主体として確立したことのプラス面とマイナス面の融和。
普遍主義 対 人種主義・性差別
<三つの可能性 >
・ 新封建制度
・ 民主的ファシズム
・ 社会主義的世界政府
近代世界システムが別の史的システムへと以降する課程を分析する際、個々の国民国家を分析単位とし、政治学・経済学・社会学などにディシプリン化されてきた既存の社会科学は無力である。世界システムを分析の単位とし(国民国家はシステムのサブシステム)、システムのダイナミズムを総体として分析する別の次元のパースペクティブが必要となる。
◆世帯(household)
「世帯(household)」とは、長期的にいろいろな種類の収入を共有する人びとの集団であり、必ずしも親族とは限らない。つまり「家族」とは同義ではない。また、世帯構成員は必ずしも同居しているとは限らない。(史,p52)
◆インターステイト・システム(国家間システム)
インターステイト・システムとは、諸国家がそれに沿って動かざるをえない一連のルールであり諸国家が生きのびてゆくのに不可欠な合法化の論拠を与えるものである。(史,p69)
資料
「共産主義はユートピアであり、どこにも存在しない。・・・これに対して社会主義は、いつの日かこの世界に実現するかもしれない史的システムのことである。・・・われわれが関心をもつのは、歴史具体的なシステムとしての社会主義だけである。・・・すなわちそれは、平等や公正の度合いを最大限に高め、また人間自身による人間生活の管理能力を高め(すなわち民主主義をすすめ)、創造力を解放するような史的システムでなければならないであろう。」(史,p153)
参考文献
I.ウォーラーステイン『史的システムとしての資本主義』川北稔訳、岩波書店、1997年
I.ウォーラーステイン『近代世界システムT』川北稔訳、岩波現代選書、1981年
I.ウォーラーステイン『近代世界システムU』川北稔訳、岩波現代選書、1981年
川北稔編『知の教科書 ウォーラーステイン』講談社選書メチエ、2001年
エティエンヌ・バリバール、イマニュエル・ウォーラーステイン『人種・国民・階級』大村書店、1997年
ヴィジョンと社会システム「途上国と世界経済」レジュメ、2003年