小熊研究会1 ハンナ・アーレント「全体主義の起源」コメント

丸山真男と日本の全体主義

環境情報学部2年 生田目啓 70147155 t01715hn@sfc.keio.ac.jp

ハンナ・アーレントの全体主義の図式

19世紀(政党の時代)

2大政党制(アメリカ・イギリス)と多党制(フランス・ドイツなどの西欧)

2大政党制:政党が特定の個人や集団の利害ではなく国全体を代表している

      自らが権力を担う意識がある

多党制:個人や集団(階級やギルド等)の利害を代表している

    権力の担い手は「国家」(たとえば官僚機構)であり、政党ではない

    →政治的な組織化ではなく社会的な組織化

 

・資本主義の発達の結果としての公共性・階級社会の解体

・階級社会から大衆社会へ

 

20世紀(運動の時代)

大衆が政治的に動員された時代

大衆を動員するためには政党よりも運動のほうが有効

(1)      階級の外、社会の外にいたユダヤ人を差別することによって大衆の内部をまとめる

(2)      秘密警察・強制収容所

 

丸山真男の全体主義の図式

日本のファシズムの特徴

1.家族主義

福沢諭吉「一身独立して、一国独立する」

しかし伊藤博文など大日本帝国憲法の制作者たちは

ヨーロッパのキリスト教に代わって天皇制によって日本を一体化させようとした

よって【国家(天皇)→ 中間共同体 → 個人】が結びつく

天皇の赤子としての国民/その雛形としての中間共同体

・教育勅語のような道徳を重視する→中性国家ではない

・ヨーロッパ的な公領域/私領域という区別がない

2.農本主義

反中央集権的・田園賛美的

ファシズム運動が起こったもっとも大きな動機は昭和恐慌以降の農村の窮乏化

ナチスが労働者を重視したのとは対照的

     日本でのファシズム運動を担ったのはインテリ層(ヨーロッパ的教養を持つ人間)

ではなく亜インテリ層(土着の権力者)

→日本におけるインテリ層の大衆からの孤立

 

3.無責任の体系(無限責任=無責任)

「明治憲法において『殆ど他の諸国の憲法には類例を見ない』大権中心主義や

皇室自立主義をとりながら、というよりも、まさにそれ故に、元老・重臣など

超憲法的存在の媒介によらないでは国会意思が一元化されないような体制が

つくられたことも、決断主体(責任の所属)を明確化することを避け、

『もちつもたれつ』の曖昧な行為関連(神輿担ぎに象徴される!)を好む行動様式が

冥々に作用している」「日本の思想」p38

「『神輿』はしばしば単なるロボットであり、『無為にして化する』。『神輿』を

直接『擁』して実権を振るうのは文武の役人であり、彼らは『神輿』から下降する

正当性を権力の基礎として無力な人民を支配するが、他方無法者に対してはどこか

尻尾をつかまえられて引きまわされる」「増補版現代政治の思想と行動」p129

・日本ファシズムの矮小性/指導者の指導意識の希薄

・ナチスやイタリアファシズムが大衆運動から出発した(下からのファシズム)

のに対して日本のファシズムは上からのファシズムである

 

参考資料

 ハンナ・アーレント「全体主義の起源」みすず書房 1972

 川崎修「現代思想の冒険者たち17 アレント 公共性の復権」講談社 1998

 丸山真男「増補版現代政治の思想と行動」未来社 1964

 丸山真男「日本の政治」岩波書店 1961

 間宮陽介「丸山真男 日本近代における公と私」筑摩書房 1999