マルクスを理解するための補足説明

総合政策学部三年

木村 和穂

s00327kk@sfc.keio.ac.jp

 

1.マルクスの目には何が映っていたか

マルクスの観念論批判を念頭におきながら、マルクスの思想そのものを追うのではなく、カール=マルクスという一人のドイツ人がどのような社会状況の中で生まれ育ち、何を見て社会変革の必要性を感じたのか考えたい。どのような社会背景のもと、マルクスは『資本論』という経済学の体系をとって表現される思想を構築していったのか。彼の目に映った時代状況はどのようなものであったのか。

 

2.後進国ドイツとトリーア

・三十年戦争(1618−1648)によって、ドイツの農村・工業は徹底的に荒廃した

・強度の封建体制、グーツヘル(封建的大土地所有者)とユンカー(土地貴族)、諸国の割拠

プロイセンの台頭、フリードリヒ大王(1712-1786)による上からの近代化(富国強兵体制)

イギリス、フランスなどに比べ、政治的・産業的に一世紀ほどの遅れをとる

1818年、マルクスはドイツ資本主義の中心地帯であるライン地方の都市トリーアに生まれる

・西には先進国フランス、東には遅れたドイツという配置、資本主義に対するアンビバレントな態度

 ライン地方はナポレオン期にフランスの支配下にあり、自由主義的知識人が多数存在した

 

3.ヘーゲルとヘーゲル左派

・マルクスはボン大学からベルリン大学へ移りヘーゲル哲学に出会う

・ヘーゲルの弁証法、事物の連関および発展の法則の包括的な叙述を試みる、右派と左派に分裂

近代の止揚、市民社会の矛盾と闘争を止揚する至高の存在としての国家、現行体制の肯定

・ヘーゲル左派、封建的体制を肯定するヘーゲル哲学を批判、理論的批判によって歴史は前進する

・フォイエルバッハ『キリスト教の本質』「神とは人間の本質が疎外され幻想化されたもの」

唯物論、ヘーゲルの観念論批判、宗教と結びついている封建体制を批判

・マルクス、「自己疎外をもたらす、逆立ちしている現実世界の変革」

・ヘーゲル左派の論文誌『ハレ年報』の発禁処分

ブルーノ・バウアーはボン大学から追放され、マルクスはライン新聞へ

 

4.ライン新聞

・ライン地方の新興ブルジョアジーの新聞、保守派『ケルン新聞』に対抗、マルクスが主筆

・ドイツ資本主義の成立が現実に提起しつつある問題との格闘

「山林盗伐の問題」、「自由貿易か保護関税か」

・資本主義が提起する問題を捉えるために、社会主義と経済学研究の必要性を痛感

・厳しい検閲と発禁処分、マルクスは辞職、国家と市民社会の観念論的把握の再検討、政治的疎外

・政治的疎外の克服は、その根拠である市民社会そのものの克服にある→人間的解放論

5.経済学研究

・スミスの見た資本主義経済の積極的な側面、「階級的搾取にもかかわらず生産力が発展する」

 分業による社会的生産力の発展、自由競争による社会的生産力の発展、封建制批判

・エンゲルス『国民経済学批判大綱』、イギリス古典経済学批判

自由競争は需給の一致ではなく、需給の絶えざる不一致と周期的恐慌をもたらす

地主・資本家・賃労働者の三大階級へ分裂、大量の失業者、共産主義運動を必至化

・マルクス『経済学・哲学草稿』、労働疎外論の確立

私的所有と労働疎外の関係を把握、生産関係の矛盾が共産主義革命を必至化する

 

6.『資本論』と明治国家の同時誕生

・『資本論』と明治国家の同時誕生、世界を一つの輪に繋がざるをえない欧米の工場制度の発達

 

1840年 アヘン戦争

1842年         南京条約、イギリスは香港を手に入れ上海を開港、マルクスはライン新聞に入る

1843年         オランダ使節が長崎に入港し開国を勧告      『経済学・哲学草稿』

1844年         新興国アメリカが香港・広東間の定期航路を開設  『ドイツ・イデオロギー』

1848年         カルフォルニアの大金鉱発見、アイルランド人のアメリカ移住激増

英国インダス平原の征服を完成          『共産党宣言』

1849年 イギリス艦隊が江戸湾を測量、米船が南部領に来航

1850年 太平天国の乱                  『新ライン新聞』

1853年 ペリーが浦賀に来航

1858年 アメリカを皮切りに各国と修交通商条約を結ぶ

1859年                         『経済学批判』

1861年 アメリカ南北戦争

1867年 英国シンガポール直轄化             『資本論』第一巻出版

1868年 明治維新

 

参考文献

マルクス/エンゲルス『ドイツ・イデオロギー』服部文男訳(新日本出版社1996年)

マルクス『経済学・哲学草稿』城塚登・田中吉六訳(岩波書店1964年)

宇都宮芳明『フォイエルバッハ』(清水書院1983年)

内田義彦『資本論の世界』(岩波書店1966年)

山中隆次他『資本論入門』(有斐閣1976年)

小牧治『マルクス』(清水書院1966年)