学校的価値との葛藤
T 学校的価値の生成 『サヨナラ、学校化社会』、太郎次郎社、2002
1-1近代の学校制度
1-2学歴社会
1-3学校イデオロギー
U
学校的価値と階層
2-1民主主義と階層
2-2学校という階層の再生産装置
V
学校的価値との葛藤
3-1学校化社会
3-2勝者の不安
3-3学校と女性
3-4業績原理と思春期的病理
W
学校的価値と新自由主義
4-1学校的価値からの脱却
4-2教育における新自由主義
4-3新自由主義のレトリック
4-3新自由主義の可能性
『サヨナラ、学校化社会』、太郎次郎社、2002
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T 学校的価値の生成
【1-1近代の学校制度】
近代の学校は、国家が整えた一つの制度。
学校を通過することで、人間がある規格にはめられ標準化される。「国民化」
従順な身体を作る装置。Cf.軍隊
【1-2学歴社会】
学歴が人間のラベルとなる。選別原理
戦前は、経済力とパラレル
戦後は、学校が下層からエリートを選別するためのバイパスとなった。
下層エリートの力量を動員するための巧妙な装置になり、同時に下層の人々の不満を解消して、国家の安定をもたらすために非常に有効に働いた。
【1-3学校イデオロギー】
業績原理「やればできる」という価値が一元的に支配している。
競争に参加することが当たり前とされ、業績競争は公正・公平で機会均等なものだという信念を誰もが持っている。
←タテマエ平等イデオロギー
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U 学校的価値と階層
【2-1民主主義と階層】
民主主義の社会では、平等のタテマエに関わらず、他人が自分よりも優位な立場にあるということを、下位にいる人間にみずから合意してもらう必要がある。
敗者のルサンチマンをどう処理するか。合意がなければ、服従させるために多大なコスト。
自由・平等・博愛の民主主義のタテマエと現実とのあいだのズレ
←和らげるための学校という装置
【2-2学校という階層の再生産装置】
ピエール・ブルデュー
学校とは元々階層差のある子どもたちを元の階層に再生産するための、振るい分けの装置だ。
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ポール・ウィリス
身分差が学校という装置をくぐることで本人にも納得され、社会的に正当化される。
階級の再生産が、当事者の自己選択によっていかに主体的になされるか。
学校での成績によって、社会に出てからの処遇が決まり、地位や給料という形で階層差が生じる。→学歴社会
V 学校的価値との葛藤
【3-1学校化社会】宮台真司 Cf.「日本は成熟社会へ向かいつつある不透明な社会」
学校的価値を再生産。(学校的価値=未来志向・ガンバリズム・偏差値一元主義)
学校的価値が学校空間からあふれだし、それ以外の社会にも浸透していった
偏差値身分制を内面化するということは、自己評価の評価軸が学校的価値とおなじになる。
1970代以降−学校的価値が蔓延化
親が学校的価値を内面化している。学校化世代。学校的価値をそのまま家庭が踏襲している。いま流行の、学校と家庭と地域の「連携」も、囲い込みに思える。
【3-2勝者の不安】
「優等生シンドローム」
学校的値を内面化して、自分のやりたいことがない・わからない・
ロボット化―これは自分のやりたいことではない・私はこれ以上とてもやり続けられない
不登校や摂食障害、逸脱行動
【3-3学校と女性】
成績優秀な女性―学校的価値を内面化。
成績のよくない女性―セクシュアリティと女性性。女性的価値を内面化し強調。
男性に利用されやすい女性性を、みずから主体的に獲得していく。
東電OL 1997年 39歳
学校的価値を愚直に信じた女が、いまの社会のハンパさに頭をぶつけて挫折し、女性性によって男社会へのリベンジを果たそうとした極限の姿。
音羽の母 1999年 30代
エリート男性をつかまえて女性性の価値で生きようと早めに切り替えた女性のメタファー。
娘に対しては、一度は学校的価値の中に叩き込み、パフォーマンスが高ければ東大を目指してもらい、悪ければ女性性で勝負してもらおうと考えていたが・・・
【3-4業績原理と思春期的病理】
女の子 摂食障害=身体が他者から値踏みされる・性的逸脱
←ダブルバインド=業績原理と女らしくあれ
男の子 引きこもり不登校(イネイブラー、母親という存在)
近年、ジェンダー差は縮小傾向
女の子 不登校 競争から降りれなくなった
男の子 拒食症 生産財男から消費財男へ
W
学校的価値と新自由主義
【4-1学校的価値からの脱却】
これからは情報資本主義
オリジナリティ→異質性を抱え込むシステムへ
授業という本分にダウンサイジング―消費者の権利を確立
多元的な価値をつくりだす。学校ではない空間「共」の空間。パブリックでもなくプライベートでもなく、コモンな空間
【4-2教育における新自由主義】
新自由主義
「自由」「選択」「個性」
新自由主義的教育改革
スリム化
学校と家庭・地域社会の連動
民間活力の導入、受益者負担
参照:児美川孝一郎 「抗いがたき"磁場"としての新自由主義教育改革」、『現代思想2002年4月号』
【4-3新自由主義のレトリック】
個性概念が能力と結合させられ、教育の平等の原理を叩く(佐藤学)
行政の責任を極小化し、個人の自己責任・自己決定を極大化する→学びの崩壊・学びからの逃走、教育の公共空間の解体を進行→優生学的発想に基づく競争社会・階層社会が準備
個性の開放とか自発性とかいう言説そのものが権力関係の網の目の中にわれわれを絡めとっていく力をもっている(参照:森田伸子「子ども史から見る戦後社会」、『現代思想2002年4月号』)
階層社会になると大衆の不満を抑えるために情報公開・司法改革・治安の強化が必要になる(渡辺治)
学校はどのような社会でもパブリック・ミッションによってでしか支えられない(佐藤)
参照:佐藤学×斎藤貴男 「教育はサーヴィスか」、『現代思想2002年4月号』
【4-4新自由主義の可能性】
新自由主義の二つの顔
個性 → 進歩主義(教育制度そのものは堅持)
市場 → 学校制度そのものの見直し
【参考文献】
・苅谷剛彦、『大衆教育社会のゆくえ 学歴主義と平等神話の戦後史』、中公新書、1995年
・ 中井浩一編、『論争・学力崩壊』、中公新書ラクレ、2001年
・ 中井浩一編、『2003論争・学力崩壊』、中公新書ラクレ、2003年
・ 上野千鶴子、『サヨナラ、学校化社会』、太郎次郎社、2002
・ 『現代思想2002年4月号』、2002年
・ ポール・ウィリス、『ハマータウンの野郎ども』、ちくま学芸文庫、1996年(1985年)
・ 今村仁司編『現代思想ピープル101』、新書館、1999年