「大衆教育社会のゆくえ 学歴主義と平等神話の戦後史」
総合政策学部4年
70006425
渡久山 和史
■著者の紹介
苅谷剛彦(かりや・たけひこ)
1955年(昭和30年)、東京生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程終了、ノースウェスタン大学大学院博士課程終了、Ph.D.(社会学)を取得。放送教育開発センター助手、助教授等を経て、現在、東京大学大学院教育学研究科助教授。専攻は教育社会学、比較社会学。
1、はじめに
・戦後日本の教育
@よい教育→よい仕事→幸福な人生(サクセス・ストーリー)
A学歴社会と受験競争への批判(常識)
・テーマ
戦後日本の教育と社会の「比較社会学」的考察
2、大衆教育社会のどこが問題か(第一章)
・大衆的規模での教育拡大(マス・エデュケーションの成立)とその大衆的基盤
@高校進学率や大学進学率が高い(量的側面)
高校進学率(42,5%、1950年→90%、1974年)
四年制大学(7,9%、1955年→30,1%、1994年)
A階層、人種、民族的な断層を不問(質的側面)
・メリトクラシーの大衆化状況
メリトクラシー:業績主義を社会の選抜の原理とする仕組み
メリトクラシーの浸透/メリットの定義の標準化と画一化/「公平」な手続きの徹底
メリトクラシーの大衆的拡大(量と質の側面)
・「学歴エリート」の誕生による大衆社会型支配
学歴エリート:メリトクラシーを通じて選び出されるエリート
エリートをエリートたらしめている一般的条件(麻生誠)
@卓越した能力 A社会に対する奉仕精神 B社会の指導者としての自覚
エリート意識のないエリート(@はともかくAとBの条件が十分当てはまるのか?)
3、消えた階層問題(第二章)
・貧困と教育問題
日本の研究者(三宅、籠山)の注目(1950年代後半まで)
・貧困と階層問題
貧富の差という社会の階層性(高度経済成長以前の1950年代)
現代では、子供の育て方や親子関係に注目→階層と教育問題の接点が希薄
・欧米における階層問題の背景
イギリス(1960~70年代)
三分肢システム→中学校の総合制化→能力別学級編成(ストリーミング)
アメリカ
中等教育の総合制化→能力別学級編成(トラッキング・システム)
・階層文化の刻印(J・コールマン、C・ジェンクス)
社会階層(インプット)と教育の成果(アウトプット)→文化の差異
4、「階層と教育」問題の底流(第三章)
・学業成績の階層差
「絶対的貧困」と学力低下(1950年代)→高度経済成長と貧困縮小(1970年代)
・4つの研究
久保瞬一(1956年)、森口兼二(1960年)、潮木守一(1978年)、都立大学(1992年)
「所得などの経済的な格差」→「親の学歴などの文化的な要因」
・教育機会の配分構造
<親から1ランク・アップし、その地位を守りぬく>という構造(今田高俊)
「属性的」要因が教育達成に大きく影響(石田浩、1989年)
5、大衆教育社会と学歴主義(第四章)
・生まれ変われる社会・生まれ変われない社会
イギリス:「生まれ」による刻印の強烈な社会/アメリカ:人種差別の激しい社会
→学歴による「生まれ変わり」が難しい社会
日本:イギリスやアメリカとそう変わらない(石田、1989年)
→「試験」という一見公平な選抜装置が、「生まれ変われるものなら生まれ変わりたい」
・学歴社会と大衆教育社会
@教育を基軸とした新しい階層秩序の形成
社会的な上昇移動=立身出世主義/「安定した」生活→ワンランク上の学歴重視
A学歴エリートの性格
出身階層の文化→学校経験を通じて形成された共通の文化的基盤
文化的には自らを大衆から画する術をもたない、大衆の延長線上にある成功者
B教育における不平等の隠蔽
学歴社会批判:学歴取得以前に生じる不平等を問題視する議論の不在
経済的不平等(学費、塾、家庭教師)→教育不平等(成績)という図式の不毛
学校文化の階層的中立性→階層文化の差異が透明→学歴取得後差別への視線
6、「能力主義的差別教育」のパラドクス(第五章)
・個性重視と学力の個人差
戦後「新教育」の合言葉は、「科学化」と「個性の尊重」→「能力別学級編成」
・能力=平等論の背景
能力別学級編成のタブー視(1950年代後半~1960年代初頭)
@知能の素質決定論に対する批判
A「貧困者」の「社会的環境」と「知能」とを関係づける見方に対して否定的
B知能が学力の決定因ではないとする学力観
・もうひとつの平等主義の普及
「誰でもがんばれば100点を取れる」=成績の差は生徒の努力によって変わる
7、大衆教育社会のゆらぎ(終章)
・ポスト偏差値教育のゆくえ
「多元的」で「多様な」、「個性重視」/「創造性」や「考える力」の重視
→そこに死角はないのか???
<参考文献>
・苅谷剛彦、『大衆教育社会のゆくえ 学歴主義と平等神話の戦後史』、中公新書、1995年
・中井浩一編、『論争・学力崩壊』、中公新書ラクレ、2001年
・上野千鶴子、『サヨナラ、学校化社会』、太郎次郎社、2002年