小熊研究会T 「グローバリゼーション」                200377

ゼロサム・ゲームを超えて

〜サスキア・サッセンのグローバリゼーション研究〜

 

総合政策学部4

70006572

中川 圭

 

1.             はじめに

 

 グローバリゼーションと言われる現象は一体何をさすのであろうか。「人、物、金、情報の世界的な移動」もしくわ、「相互依存の拡大と時空間の圧縮である」という一般的な解釈はグローバリゼーションの本質を語っているのだろうか。

 本プレゼンでは、こうしたゼロ=サムゲーム的に解釈されがちなグローバリゼーションに対するサスキア・サッセンの反論を述べた後、彼女のグローバリゼーション研究とそれに関連する具体的事例を追っていく。

 

2.             サスキア・サッセンについて

 

アルゼンチン生まれ。グローバリゼーション研究において活躍する論者。

ヨーロッパにおいて学位を取得後、アメリカ合衆国の大学に籍をおいて活躍。

1998年までコロンビア大学都市計画教授。現在はシカゴ大学社会学教授。

また、彼女はスタンフォード大学など数多くの大学や研究機関のヴィジティング・スカラー、ニューヨーク市などの公的機関やベルギー政府科学技術機関の新議員を務め、またいくつかの雑誌の編集などにも携わり、多くの学会やシンポジウムにもパネラーとして参加するなど、たんに机上の理論家ではなく、きわめて行動的な研究者といえる。

彼女の研究と関連するプロフィールにおいて特筆すべき特徴としては、南米で生まれながら、ヨーロッパで学び、米国で教鞭を執っているという意味では自らが移民として、「グローバリゼーション」を実践している点である。

また、米国に未登録移民として入国後、清掃員として働いた経験を持つ。

 

 

3.             グローバリゼーションにおける言説

 

   □相互依存の拡大と時空間の圧縮

−科学技術の発達により、人・物・金・情報の流通が活発になり、相互の関係性が密になったとともに時空間が圧縮されたという考え方

 Aグローバル経済が獲得したものを国民国家は失い、その逆は逆であるという考え方(ゼロ=サムゲーム)

  Bある出来事が国家の領土のなかで起こるならば、企業取引であれ裁判所の決定であれ、それは国内の出来事である

   →こうした言説に対する批判

 

 

4.             サッセンの主張

 

 4−1.@「相互依存の拡大と時空間の圧縮」に対する批判

 

「西洋の歴史をみれば、数世紀の間に相互依存が時間的なずれとともに拡大し、全て崩壊し、再び新たな相互依存が拡大している。」

 

Ex.)大西洋を帆船から蒸気船で横断するようになった時にも、時空間的な圧縮が起きた

→「グローバリゼーション」が叫ばれた以前から存在する

 

 4−2.A・B「ゼロ=サムゲームに対する批判」

 

「グローバルなものとナショナルなものはうろこ状に重なり合うもの。」

「決してグローバル―ナショナルの二項対立ではない。そして国内でおきる出来事も必ず、グローバルから影響を与えられている。」

 

ex.)新たな権力であるグローバルな金融市場は、他の省庁を弱体化しながらも、国民国家のある種の構成要素、とくに財務省のような国際的金融機能と結びついた省庁を強化してきた。

 

 

5.             サッセンの議論におけるグローバリゼーション

 

 5−1.サッセンのグローバリゼーションとは何か

「グローバルなものとナショナルなものの遭遇により生じる現象」

 

「経済のグローバリゼーションは、抽象的な真空のなかで展開するのではなく、それが構成される具体的な場を持ち(グローバル・シティ)、そこにはグローバルな主体の活動を可能にする様々な組織や制度(WTO、国際会計基準など)が創られ、インフラストラクチャーが形成され、そしてそれらの活動を担う、エリートから底辺までの労働力(移民)が必要となる。」

 

■国際会計基準

 国際会計基準は企業の通信簿のような役割を担うものである。これによって投資家はその企業の企業経営状況を判断する。

 1973年に設立された国際会計基準委員会は独立した民間部門であり、企業や政府によって使われる統一的基準作る目的活動を展開してきた。1997年までには、日本とカナダとアメリカを除くすべての証券取引所によって、受け入れられてきたのだが、日本政府は自国の会計制度を放棄することに抵抗した。

 しかし、日本の企業の主要な株主には、外資系企業が含まれるようになり、海外資本の増加はますます魅力的なものになっていった。そうした状況の中、日本の企業側は政府に国際会計基準批准を訴え、政府はそうした意向を受け入れざるをえなかった。

 これはグローバルな行為主体とナショナルな機関との衝突が演じられる新しい未開拓な領域における争いの程度を示す代表的な例である。

 

 5−2.グローバリゼーションによる二つの現象と強化

 

     国民国家の一部として深く根付いている部分の非国家的な場所への再配置

=民営化による民間経済体内部や、トランスナショナルあるいは超国家的な機構

ex.) WTO, EU、国際会計基準

→グローバル経済の強化

 

     かつてナショナルな機能とされていたものの「脱国家化」―「再国家化」

=過去数世紀に起きた変化とはまた違った国家機構の変化

→ナショナルな機関が、グローバルな経済システムのある種のルールを生み出し、

実行する場となりうる。

ex.)ナショナル(中央銀行、財務省、専門監督機関等々)を通じてグローバル経済を発展させていく。

→国家機構の再強化

 

6.             個別の研究領域

 

 6−1.移民研究 (『労働と資本の国際移動』)

 ●グローバリゼーション研究を始めるにあたっての原点となった問題意識。

 

『労働と資本の国際移動』―多国籍企業論と移民研究を結びつけた研究

 

・貧困=プッシュ要因(=貧しい国は移民送り出し国である)

・多くの仕事口と高賃金の存在=プル要因(=豊かな国は移民受入国である)

に対する批判

→米国の役割を重視

「地球大の経済が出現するに際してアメリカ合衆国が果たした、軍事面・政治面・経済面での中心的役割が、人々を地域的であれ国際的であれ空間的な移動に巻き込んでいく

諸条件を作り出すとともに、アメリカと他の諸国とのあいだに、国際的移民のための架橋として役立つような連関を形成した。」

→例)1965年以降に始まった対米移民流入の新局面

(1)生産の国際化

   −アメリカ合衆国といくつかの第三世界諸国との間の連携を作り出し、さらには人々の生存基盤を奪って移住に駆り立ててきた。

(2)世界的経済システムを調整し管理するための中心としての、主要大都市の出現

    −高所得の仕事口のみならず、低所得職種と、浮動的で不安定な職業形態の増

大をもたらした。

(3)アメリカ合衆国を製造業その他の外国企業にとって魅力ある立地場所たらしめ、とくにその特定地域を生産の場所として第三世界諸国と競争可能にするような諸条件の発展

    −国民的枠組みをこえた経済活動空間を形成するのに貢献

 

→グローバリゼーション議論の基礎付け

 

6−2.「グローバル・シティ」(世界都市)研究 (”The Global City”

     グローバリゼーションが構成される具体的な場

1980年頃にサッセンが提唱した都市に対する新たな概念。

 後にニューヨーク、ロンドン、東京などに関する実証的な研究を行う。

”The Global City”

 

「長らく国民国家と結び付けて連想してきた排他的領土性の揺らぎ」

−ニューヨーク、ロスアンジェルス、ロンドン、東京など

 

 @資本蓄積の場

「グローバル・シティ」では、越境する資本と越境する労働力が直接に出会うが、しかし、たんに多国籍の人や企業の集まる場ではなく、重要なのは、グローバル・シティは、世界経済のもっとも主要な資本蓄積=価値増殖の場であり、そして国家権力に部分的に取って代わるグローバルな権力が世界をコントロールする意思決定をおこない、近代の新しい権威が創出される場であるという点である。

 

 Aナショナルとグローバルが複雑に絡み合う場

「ナショナルなものに内在するグローバルなものの形態のひとつを確定し、それがナショナルなものにとり外在的であるどころか、逆にいかに内在化しているということを考察するための第一段階であったといえます。(中略)グローバル・シティでは、グローバルな動きがふるいにかけられ、「ローカルな状態」になるのです。」

 

ex.) 一方には世界の巨大企業の本社ビルとブランド商品を販売する専門店が立ち並ぶダウンタウン/ミッドタウン、他方では犯罪とドラッグの温床として表象される周辺部のスラム街(グローバル/ローカル)

 

 6−3.シティズンシップ

●グローバリゼーションによって変化した新たな市民権

 

 グローバリゼーションの二つの諸要素

 ・経済のグローバリゼーションによる国家の脱国家化

 ・国家が所有し続けてきた主権の分散

 による市民権の変化

 ※市民権の諸権利―公民権、政治的権利、福祉国家の社会的権利

 

@     経済的市民権―社会的権利の強化

この経済的市民権は市民に帰属するものではなく、企業や市場に帰属するものである。また、それは、個人あるいは市民に配置されるのではなく、グローバルな経済行為者に配置される。グローバルであるということによって、これらの行為者は個々の政府に対する権力を持つようになる。

→市場は政府の経済政策に対し、賛否の投票意思を表すことができる。

―政府からの説明責任を引き出す

 

A     シティズンシップのアイデンティティ

正式な権利の享受は正式な市民である場合のみ可能であるが、未登録移民でもシティズンとしての実践を行うことは可能になった。

何故なら、脱国家化された世界では、シティズンシップのアイデンティティが正式なシティズンシップを持つ「国民国家」とはほとんど結びついておらず、人権、環境、フェミニスト運動などの活動を通じて形成されたアイデンティティとむしろ強く結合し、これを通じてシティズンシップ・アイデンティティを持つことが可能になっているからである。

EX.)反グローバリゼーション・ネットワークの活動家

  説明責任を要求し世界中を駆け回る彼らは、他国へ行き、従来の市民権を有

していなくても、独自のネットワークを利用して「市民」として活動する。

  

7.             終わりに

 

 現在、サスキア・サッセンのこうした議論を多くの論者が取り入れ様々な学問領域へと発展している。例えば日本では、吉見俊哉氏が文化研究へ、町村敬志氏が都市研究へ、姜尚中氏がガバナンス研究へと発展させているなどである。

 こうした中でも特にグローバリゼーションによる、文化やアイデンティティの変容などにその注目が集まっており、今後更なる発展が期待される。

 

参考文献

『グローバリゼーション』 伊豫谷登士翁編 作品社 2002

『グローバリゼーションの時代』サスキア・サッセン著 伊豫谷登士翁訳 平凡社 1999年 

『経済のグローバリゼーションとジェンダー』伊豫谷登士翁編 明石書店 2001

『現代思想―特集サスキア・サッセン』20035月号

『思想』938号 2002

『史的システムとしての資本主義』I.ウォーラーステイン著 川北稔訳 現代選書 1985

『労働と資本の国際移動−世界都市と移民労働者−』 サスキア・サッセン著 森田桐郎訳 1992

The Global City Sasukia Sassen, Princeton University Press, 1991