2004年度秋学期研究会概要 B(テーマ)

政治思想の基礎

Learning the Base of Political Philosophy)

担当者 小熊英二(総合政策学部)

 

1、主題と目標

 今期の研究会では、ホッブズ、ロック、ルソー、ヘーゲル、ニーチェなど、古典的な思想を読んでみたい。講義「近代思想」でとりあげた思想家たちの著作を初めとした古典を、実際に読んでみようという企図である。

 これらの思想が生まれたのは、17世紀から19世紀であるが、いわば「近代」の幕開けともいうべき時期の産物である。それゆえ、現代と多少時代背景が異なってはいるものの、現代にも通ずる問題が論じられていることも多い。またそうした要素がなければ、現代でも古典として残っているということはないだろう。

 これらの思想は、その時代ごとの現実政治のなかから生れてきたものばかりである。それらは、現在とは異なった社会状況のもとで書かれたものではあるが、まさにそうであるがゆえに、現代社会を思いもよらなかったような角度から見直す視点を与えてくれる。これらは、それ自体として「自由とは何か」「幸福とは何か」「人間とは何か」「民主主義とは何か」といった問いに一定の回答を与えるだけでなく、社会学や現代思想を学んでいくうえでの基礎ともなる。

 今回とりあげる思想家や著作は、すでに評価の定まった古典ばかりなので、読んでおいて損になるものはない。また研究会においては、思想を思想としてだけ読むのではなく、現在の問題にひきよせて理解するよう努めるつもりである。半年の研究会では、膨大な政治思想の「さわり」程度しか学ぶことはとうていできないが、ぜひ先人たちの知恵の宝庫を「覗き見」していただきたい。

 

2、研究会スケジュールと受講資格

 1回から2回、簡単に講義する。そのあと、発表と講義を行なってゆく。

 受講にあたっては、以下に示す受講課題レポートを提出すること。また「近代思想」を受講済みであることが望ましい。

開講時に希望者多数の場合には、@春学期からの継続履修者、A課題図書の読破量が多い者、B担当者の「ヴィジョンと社会システム」「近代思想」の履修をした者、C学年の若い者、などに受講チャンスを与える原則で選抜する。ただし、現時点で春学期からの継続履修希望者がかなりいるので、四年生秋学期からの新規受講者は(よほど優秀かつ熱心なら配慮するが)遠慮してもらいたい。

 

3、基本テキスト

 小笠原弘親・小野紀明・藤原保信著「政治思想史」(有斐閣Sシリーズ)

 内田満・内山秀夫・河中二講・武者小路公秀「現代政治学の基礎知識」(有斐閣ブックス)

 中央公論社「世界の名著」シリーズなど

 

4、受講課題

 受講課題レポートとしては、課題図書を二冊以上読んで、それぞれ「まとめ」を作成すること(教科書類はのぞく)。目処としては、A4数枚程度。提出は開講時でよい。

 研究会の進行としては、前述のように最初2回ほどのオリエンテーションと講義を行ったあと、履修者による課題図書の報告と担当者の講義を行なう。履修者は課題図書について、@報告を担当するか、A報告をしない場合は課題図書5冊分の「まとめ」を提出するか、どちらかを実行してもらいたい(Aの場合は、受講時に提出する2冊分の「まとめ」プラス5冊分)。そのうえで、最終レポートを提出してもらいたい。報告者は研究会初回で募るので、積極的に応募してもらいたい。

 課題図書は、以下のとおりである。6月に挙げたときにくらべ、数点変化しているが、現在市販で入手困難なものは省くことにした結果である。ほとんどは岩波文庫その他で安く入手できるので、アマゾンその他で検索すれば容易である。

あるいはもよりの区立・市立図書館で検索すれば、中央公論社でかつて出版されていた「世界の名著」シリーズなどが必ずあるはずである。中央図書館などからとりよせて、必要部分はコピーして利用するとよい。

 本がむずかしいと感じる場合には、本に付属している解説や、あるいは解説書などから読むとよい。中央公論社「世界の名著」シリーズは、やや内容が古いがくわしい解説がどの巻にもついており、その意味でも便利である。解説書としては、講談社の選書メチエや、清水書院の「人と思想」シリーズなど、いろいろある。いずれにしても、担当者の「近代思想」を受講した経験のある者なら、あるていど理解できると思う。

 

@プラトン「国家」

 古代ギリシア哲学の古典であるだけでなく、きわめて特異な国家構想論としても興味深い。

 

Aホッブズ「リヴァイアサン」

 近代政治思想の起源ともいうべき古典中の古典。最近でも雑誌『現代思想』で特集されるなど注目が続く。

 

Bロック「統治論」

 これも古典として名高い。ホッブズにくらべ「自由主義」系思想の元祖とされ、現代からふりかえられて論じられることも多い。

 

Cルソー「社会契約論」

 過激な民主主義者の妄想が炸裂する。近代ナショナリズムの起源ともいえる古典。

 

Dカント「実践理性批判」

 いわゆる「三批判」の一部。倫理や美学思想の原点として知られる。

 

Eヘーゲル「精神現象学」

 弁証法というそれ以前の哲学書とは異質な世界認識を打ち出した。マルクスの起源であると同時に、いわゆる「現代思想」の起源ともいえる古典。

 

Fバーク「フランス革命についての省察」

 近代および現代の保守思想の元祖。というより、多くの保守思想はここから前に進んでいないのかもしれない。

 

Gアダム・スミス「国富論」

 自由主義経済思想の元祖として知られるが、現在の新古典派経済学とは発想の異なる部分もある。読み直す価値のある古典。

 

Hミル「自由論」

 功利主義の古典。当初はベンサム「道徳および立法の諸原理序説」を指定しようと思ったが、現在は市販がないのでこちらに変更した。ベンサムも前述した「世界の名著」シリーズなどで図書館では容易に入手可能なので、こちらを読んで報告したい者がいればそれでもよい。

 

Iマルクス「経済学・哲学草稿」

 かつてはマルクスの著作の中でも入門書としてよく読まれた本だが、ここに示された構想力はいまでも十分に読める。ヘーゲルやニーチェとならんで「現代思想」の元祖。

 

Jニーチェ「道徳の系譜」

 この本がフーコーへもたらした影響などが、読んでみると顕著にうかがえる。これも「現代思想」の元祖的存在。