〈本論の動機〉
現代では女性の労働意欲が高まっており、第3次産業の発展によってその受け入れられる場も広がっている。つまり女性の労働に対する需要と供給の一致が見られているため、女性の社会進出はさらに進行することが予想される。そしてこの動きは社会的にも奨励されているものである。
しかし例えば女性労働者の多くはパートなど短時間労働者にとどまっているということなどから、順調に進むと予想された社会進出に歯止めをかけるものがあるように思われる。そしてそれは、女性の社会進出という動きと逆行する価値観の存在であり、これが個人の意識と社会システムによって再生産されていると考えられるのである。
この論文では、そのような価値観を支える社会システムに注目し、どのような方向に社会システムを変えることでその価値観の転換がなされるかを考えたい。
〈本論の内容〉
日本の中世は、男性と女性が共に社会における労働に参加していた時代だった。それは近代や近世と異なり、女性を社会から排除する政治的なイデオロギーがなかったためである。そこでまず、価値観の形成について、それが社会システムの影響を受けるということを考察する。そしてそれに基づき、日本的経営や近代社会といったシステムが社会から女性を排除する価値観をつくり出し、実際に女性を排除してきたということについてまとめる。その上で改めて日本の中世社会を見て、その特徴として女性を社会から排除するイデオロギーが存在しないこと、男性も女性も共に働くことが当たり前とされていたこと、性別役割分業のあり方が現代と異なっていた、ということを導き出す。
〈本論の意義〉
女性が公的領域つまり社会から排除されるのは社会政策上にそのようなイデオロギーが存在するためであるということ、一口に性別役割分業と言ってもどのような社会システムやそこから生み出される価値観を背景とするかによって結果的に全く性質の異なったものになる、ということを示せたこと。このことによって、機械的にあるいは世論に迎合するような形で改正(改悪)されている現代社会の法律や慣習の内容やその欠点を批判的に検討し直すことができるだろう。