19991213 小熊研究会

総合政策学部3 石野純也 79700729

 

研究計画書

 

  1. 研究テーマ
  2. 戦後教育改革史に見る教育理念の変化と一貫性

     

  3. 問題設定
  4. 戦後の教育改革を俯瞰するとある一定の繰り返しがあるように思える。ある時期には学力の必要性を説いていて、ある時期にはそれを知育偏重と批判するといったように。例えば、戦後まもなくは戦時中の教育に対する反省から知識の詰め込み、上からの教え込みに対する反発というものがあったが、「逆コース」の時代に入りその後日本に高度経済成長が到来すると、その経済システムを維持するために適度な知識を持った人間が必要とされ知育に重点が置かれていくこととなる。その後、「臨教審」の時代になると、人間性重視の教育や、個性の教育といった理念が出現し従来の教育は知育偏重として批判されいくことになる。現在の状況を見てみても、個性の重視という建前を掲げ、本音では生徒集めのために受験科目を減らす大学が増加する一方で、最近になって新聞各紙等で大学生の学力が低下していると警鐘を鳴らすという現象も起こっている。

    それでは、どちらが正しい教育の在り方なのか、と問われた時に答えを出すことができるのだろうか?また、公教育を通してしか「個性」や「人間性」は実現されないものなのだろうか?その様な疑問を解決するために今回の研究に取り組んでみた。

  5. 研究方法
  6. 今回の研究では、教育の支配者層、つまり、政府部門や財界の発表している資料や言説(例えば「臨教審」の答申等)の内、教育の理念に関するもの、教育の目標に関するものを批判的に分析していく。また、パーソンズのシステム論、ブルデューの教育社会学を批判的に用いながら、戦後の教育改革の理念が変動しつつも、国民国家の原則を維持する方向に常に向きつづけていたことを理論的に明らかにしたい。

     

  7. 仮説
研究中間発表

研究中間発表

 

  1. 教育理念の歴史的変化

戦後復興期の時代

「生徒の個人差を認め、個人の持つ潜在的能力の開発に力点をおき、そして効果的に社会集団に参与せしめる」

GHQの教育使節団の理念を実践していった

戦後の復興期でもあり、個性重視の教育が謳われていた(ex. 生活単元学習 コアカリキュラム連盟など)

 

逆コースから高度経済成長への時代

教科中心主義の教育課程へ

「石坂泰三、石橋湛山、安原三郎など八人のメンバーの立場は、経団連・日経連など経済関係団体の意向を反映していたとされる。」(尾崎、1999

・学習指導要領が「コースオブスタディー」から「絶対的な基準教育課程」へ

・経験主義のカリキュラム→客観主義的、知識中心主義的カリキュラムへの移行(学力低下への批判や、科学技術教育の推進の必要性から)

経済の国際的競争力を重視 知識中心主義の教育へ

参考資料(『子供白書』1974

小学校各学年配当漢字数

1 46 76

2 105 145

3 187 195

4 205 195

5 194 196

6 144 190

 

第二次大戦後の「冷戦」や51年のサンフランシスコ講和条約、日米安全保障条約などの締結の必要性から、また、その後は高度経済成長の推進の担い手を再生産する必要性から教育が改革された

教育改革の時代と臨教審

自由化(個性尊重)、多様化、国際化、情報化をキーワードに教育改革を方向性を提案

その後の様々な教育改革の理念の下地となった

 

  1. パーソンズの社会システム論
  2. 中期パーソンズAGIL図式

    後期パーソンズA(経済) G(政治) I(統合) L(潜在的パターン維持)にヒエラルヒッシュな関係

    「条件付けのヒエラルヒーが−つまり経済が基底にあって政治を条件づけ、政治が国民の連帯を条件づけ、国民共同体が価値パターンの維持を条件づけるという序列が−存在する、というのである。」(高城、1986

    これを経済条件が政治を媒介とすることによって教育システムを変化させ、その事によって国民共同体の価値パターンを維持させていると解釈することができる。

    Ex. 高度経済成長に突入→諮問機関によって政策提案→教育内容の実質的改革→経済重視の価値パターン

     

     

  3. 変化しない教育理念

確かに教育の理念はその時代時代の経済状況、政治状況によって変化している。しかし、それらによって影響を受けていない部分もあるのではないか。

 

「忠誠心と愛国心がいかなる国家においても望ましくない、と言うのではない」

「民主主義的な市民は、自分たちの努力をよろこんで公共に提供する義務がある。そして、そのためには、単に、国家機構や高邁な理想についての知識ばかりでなく、実際の政治によろこんで参加するという心構えが必要である。」

国民国家を前提とした教育観

 

羽渓委員「(前略)是も一大変革を見ようとする今日、我が国伝統の忠孝を如何に新教育の上に発現して行くかということは相当重大な問題であります。」「(前略)今日デモクラチックに新しい教育を行うという新時代に於ても、日本の伝統である忠孝一体道義を基礎としたあの教育勅語の思召を全然無視する訳には行かない。」

渡辺委員 羽渓委員の教育勅語に対する見解に反対しながらも「私共の狭い経験で外国を見まして、日本の教育のやり方というものは、それ程明治、大正の時代に誤って居たとは思わないのであります。世界の一つの良い例として誇り得る位の制度、内容を持って居ったと思うのであります。」

竹下委員「我々日本国民として考えなければならぬことは、日本国というものをより長く存続せしめ、日本国民としての矜持を失わず、寧ろ他の国民よりも優れて居る位の自覚を持ち、修養に務め、他の国民、他の民族をしてこれに習わしめるという位の気概がなければならぬと思うのであります。」

 

南原繁(教育刷新委員会の副委員長)「この場合、教育はまことに国の根本でございます。日本の再建のいしずえであると存じます。(中略)そういう国であって初めて心から国を愛し、愛国心が油然として青少年の間に湧くのである。」

日本の戦後教育の基礎を作ったとされる教育刷新委員会の中での議論ですらこの様なものである。教育の目的→よりよい国家を存続させていくための国民を養成すること

 

第一 後期中等教育の理念 「(前略)教育の機会均等の徹底強化を期するとともに、国家社会の形成者として、またその経済的、社会的発展のにない手として、もっとも大きな割合を占める青少年に対し、初等教育の基礎の上に、さらに充実した個性と能力を発揮させる機会を提供することが、今日の重要な国家的課題であることを示すものといえよう。」

 

中曽根総理大臣「教育改革は、我が国固有の伝統文化を維持発展させるとともに、日本人としての自覚に立って国際社会に貢献する国民の育成を期し、普遍的人間社会の生活規範を身につけながら、高い理想と強健な体力、豊かな個性と想像力を育むことを目標として行われるべきものと考えます。」

岡本会長「『教育基本法には愛国心が書いてない。このままでいいのか』という意見もあったが、基本法の教育の目的のなかにある『平和な国家』『心身ともに健康な国民』という言葉に、極端な国家主義でなく、バランスのとれた国家を大事にする、という新しい意味の愛国心がこめられている。基本法の枠の中で、自然で創造的な教育のあり方を示そう、というのが臨教審の基本的な姿勢だ。」大森和男 『臨時教育審議会3年間の記録』(朝日新聞社、1987

臨教審最終答申 第一章 教育改革の必要性 教育の基本的在り方 「個々人は、一人で存在するものではなく国家社会の形成者としての責任を果たす自覚が求められる。」

「個性の尊重」や「国際化」のキーワードの裏に国民国家尊重の理念が見え隠れしている。

 

  1. P・ブルデューのハビトゥスと教育システムの相対的自律

ハビトゥス:(部分的あるいは全体的に同一性を持った)知覚、思考、評価、行為のシ

ェーマの体系 ブルデュー&パスロン『再生産』より

 

戦後の教育(の支配者層)が被教育者に対して求めていたハビトゥス=国民国家の維持のための思考(アメリカ教育使節団から臨教審の時代まである程度一貫している)

 

教育システムの相対的自律:教育システムが階級構造に従属していながらも自律していること

 

教育システムは経済や政治の状況からある程度影響を受けているが(本レジュメ第1章より)教育システムの支配者層が国民国家維持のためのハビトゥスを教え込もうとしているという点では自律している

 

参考文献

ピエール・ブルデュー&ジャン=クロード・パスロン 宮島喬 『再生産』(藤原書店、1991

ピエール・ブルデュー&ジャン=クロード・パスロン 石井洋次郎 監訳 『遺産相続者たち』(藤原書店、1997

ピエール・ブルデュー 『ピエール・ブルデュー』(藤原書店、1990

ピエール・ブルデュー&リュク・ボルタンスキー 「教育システムと経済」『現代思想11 vol.13-12』(青土社、1985

宮島喬 「再生産論としての教育論の構造」『現代思想11 vol.13-12』(青土社、1985

高城和義 『パーソンズの理論体系』(日本評論社、1986

タルコット・パーソンズ 矢沢修次郎 訳『社会類型―進化と比較』(至誠堂、1971

タルコット・パーソンズ 丸山哲央 『文化システム論』(ミネルヴァ書房、1991

タルコット・パーソンズ 武田良三 監訳 「社会システムとしての学級−アメリカ社会における若干の機能」『社会構造とパーソナリティ』(新泉社、1973

尾崎ムゲン 『日本の教育改革』(中公新書、1999

村井実 『アメリカ教育使節団報告書』(講談社学術文庫、1979

山住正己 『日本教育小史 −近・現代−』(岩波新書、1987年)