SFC研究会 月曜5限 担当:小熊

 

研究計画書

 

総合政策学部3年 貴戸理恵 No.79703302

 

研究テーマの名称

「子ども・親・指導員にとっての学童保育

    “はまっ子ふれあいスクール”をめぐって――運動体としての学童」

 

調査地:神奈川県横浜市

 

調査対象

市内の学童保育160994月現在、委託155箇所・共同5箇所)と横浜市学童保育連絡協議会、労働組合およびA学童保育の父母・指導員。

19984月より学童保育は児童福祉法に基づく事業として法制化された。全国的には存在が認められ、事業の発展の大きな前進になったが、横浜市では横浜市教育委員会による放課後児童健全育成事業「はまっ子ふれあいスクール」が誕生し、学童保育の代替財として注目を集めた。一時は学童保育を解体し「はまっ子」との「一本化」推進などが自民党によって検討されたが、学童側の父母・指導員の猛反対にあって立ち消える。現在条例化に向けて試案作成中。

 

調査方法

連協の総会に参加する。

A学童保育の父母会および交流会に出席し、参与観察と集団インタビューを行う。

横浜市学童保育連絡協議会、横浜市従業員労働組合などの発行する資料を調べる。

 

仮説及び作業仮説

 連協(学童保育運動の核)と現場の運営主体(父母)、労働組合(指導員)は、連帯するものとして行政に対峙してきたが、その運動体の内部では、断絶が生じているのではないか。学童保育は立ち上がりから一貫して、働く父母たちが厳しい状況の中で常に運動して存続させてきたものだった。それがある程度一般化してきて、運動体意識のない父母たちが子どもを入所させるようになった。「学童保育に国の援助を・そのためには労力を惜しまず積極的な運動を」という連協の強い態度が、「自分のために、子どものために、働きながら子育てしやすい場を」という父母たちの願いと食い違っているのではないか。指導員は「子どものために」という点で父母と強く連帯してきたが、雇用問題になると父母と利益を異にするだろう。

 本研究では「はまっ子ふれあいスクール」問題に焦点を当て、「はまっ子」の成立から自民党による「一本化」提案、教育委員会による「はまっ子」拡充案、それに対する連協の反対運動を追いながら、以下の事柄を検証していきたい。

学童保育の「学校施設の利用」について連協、父母、指導員はどう考えるか。(「学校の中が子どもにとって一番安全」「放課後まで管理的な学校の雰囲気の中で過ごさせたくはない」「学童にとって大きな問題である施設の場所は公的に確保されるべきだから、放課後の学校を開放せよ」など)

連協の総会などでは、学童保育の法制化や条例化のための試案作りがなされるが、その際の意思決定はどのように行われているか。(父母や指導員による意見交換が充分になされているか、その声が反映されているか、採決はどのようになされるか)

「はまっ子」に絡んだ一連の動きに関する連協の発行した資料にはどのようなものがあるか。(「はまっ子」設立当初1994から、「はまっ子」拡充案1999に至るまで、反対運動にどのような論理が使われてきたか。)

「はまっ子」に対して連協、父母、指導員は本音ではどう考えているか。(「学童の存在を脅かす『はまっ子』には運動体として断固反対していくべきだ」「学童がなくなったら失業してしまうから、反対する」「『はまっ子』は無料だし、今の学童と同じことをしてくれるなら『はまっ子』の方がいいかも」など)

→たてまえは「『はまっ子』は放課後の子どもたちの健全育成が目的(全児童対策)、学童保育は子どもに生活の場を与え、親の働く権利を保障することが目的(留守家庭児童対策)だから、根本的に異なる事業であり、一本化は無理」となっている。

学童保育運動は、「父母たちの手による多様で個性的な子育ての場」と自己定義しながら「法制化して一律に基準を定める」ことを国家に要求するという、根本的な背理を孕んでいる。今、子どもの生活空間である現場で何が求められているのか、それを満たすために何がなされるべきなのかを、再確認する必要があるのではないか。

 

本研究の意義

人々が漠然と感じている、連協への不信や、指導員と父母の立場による論理構築の違いなどを具体的に言語化すること。学童保育が全国に広まり発展するに従って、運動の担い手である父母や指導員は多様化し、運動体内部に差異が生じている。これまでになされた学童保育に関する研究では、児童心理学的アプローチ、女性学的アプローチなどに比べ、市民運動としての学童保育を取り上げたものは少ない。更に、運動体内部の較差を対象とした研究はない。

 

本研究の限界

99年現在、横浜市学童保育には具体的な運営形態の法的規定がないため、様々な施設が存在する。本研究に登場する「父母」「指導員」たちは主にA学童保育の関係者なので、考え方の多様性には限りがある。また、本研究は「運動体としての学童保育」に貢献する意味で、「行政による介入をどこまで求めるべきか」、更に「どのような条例試案が適当か」という問いに答を出すものではない。

 

関連データ:「『学童保育とはまっ子ふれあいスクールの違いを考える』討論集会・資料」

1994 横浜市学童保育連絡協議会

             「全国学童保育研究集会」1997 全国学童保育連絡協議会

             「第9回定期大会」1999 横浜市従業員労働組合 学童保育指導員支部 他